【曲解説】Sting – We Work The Black Seam

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曲情報

We Work the Black Seam(ウィ・ワーク・ザ・ブラック・シーム)は、イギリスのミュージシャン、スティングが1985年に発表したソロ・デビュー・アルバム『The Dream of the Blue Turtles』(ザ・ドリーム・オブ・ザ・ブルー・タートルズ)に収録されたプロテスト・ソングであり、アルバム内で最も長い楽曲である。この曲の歌詞は、アルバム発売の前年にストライキを行ったイギリスの炭鉱労働者の立場を表明し、マーガレット・サッチャー首相率いる保守党政府に向けられたメッセージとなっている。炭鉱労働者が自らの仕事に持つ深い誇りや、その経済・文化的意義を表現するとともに、ウィリアム・ブレイクの詩『And did those feet in ancient time』に言及しながら、サッチャーの経済政策、特にエネルギー政策の核エネルギーへの転換を批判している。

背景

スティングは自身の故郷であるニューカッスル近郊のノーサンバーランドでの経験から、この曲を書くに至った。彼は、ストライキ中に炭鉱労働者の主張が十分に説明されず、また原子力発電の危険性についての議論が行われなかったことに疑問を抱いていた。

スティングの父親は造船業に従事しており、かつてイギリス経済を支えたが20世紀後半には衰退した産業の一つであった。また、スティングはこの曲のメロディを、1970年代半ばに所属していたジャズ・バンドLast Exit(ラスト・イグジット)で共作・録音した楽曲から引用している。

この曲はドイツ、オーストラリア、ニュージーランドでシングルとしてリリースされ、翌年にはライブ・バージョンが『Bring on the Night』およびそのサウンドトラック・アルバムのために撮影された。スティングは1993年のアルバム『Ten Summoner’s Tales』で新たなアレンジで再録音し、2010年の『Symphonicities』では交響楽団向けに編曲した。

批評と評価

批評家はこの楽曲の音楽的構成を概ね高く評価した。特に、執拗に繰り返されるシンセサイザーのリフと一定したパーカッションのリズムが、機械的な側面とスティングのヴォーカルやブランフォード・マルサリスのソプラノ・サックスの旋律による人間的な側面との対比を生み出していると指摘された。

一方で、歌詞に関しては賛否が分かれた。特に「炭素14(Carbon-14)は危険な放射性物質である」という歌詞について、科学者からは「炭素14は自然界に広く存在するもので、通常の量では無害であり、むしろ放射性年代測定に利用される」との指摘がなされた。

三十年後のインタビューで、スティングは気候変動の影響を考慮し、原子力エネルギーを以前より肯定的に捉えるようになったと発言している。

経済・政治・社会的背景

1979年のイギリス総選挙で保守党が勝利し、マーガレット・サッチャーが首相に就任した際、彼女はイギリスの原子力発電能力の拡充を掲げた。サッチャーは1973年のオイルショックを受けてフランスが実施したメスメル計画に影響を受け、イギリスでも15ギガワットの原子力発電能力を追加する計画を打ち出した。

また、政治的要因も原子力政策の推進を後押しした。前回の保守党政権は、全国的な炭鉱ストライキの影響で敗北し、労働党が政権を握る要因となった。そのため、新たな保守党政府は、炭鉱労働組合(NUM)が経済に対して持つ影響力を弱める必要があると考えていた。

1984年、政府は南ヨークシャーの炭鉱での労働停止を受けて全国規模のストライキが発生。NUMの指導者アーサー・スカーギルの呼びかけにもかかわらず、全国的な投票が行われなかったため、すべての地域が参加したわけではなかった。このストライキ中、石炭の使用は3分の1に減少し、原子力発電がその不足分を補った。約1年後、炭鉱労働者側の大きな成果もなくストライキは終結し、その後、多くの炭鉱が閉鎖された。

作曲と音楽的特徴

「We Work the Black Seam」は、スティングが過去に書いたメロディをもとに、1984年の炭鉱ストライキ中に歌詞をつけた楽曲である。レコーディングはバルバドスのEddy GrantのBlue Waveスタジオ、およびカナダのLe Studioで行われた。

楽曲は4/4拍子で、テンポは120BPM。イントロはAマイナーのコード進行(Am-C-Em7)で始まり、サビではFメジャーに転調し(F-C-D-a)、サクソフォンのカウンターメロディが挿入される。

また、オープン・フォースやフィフスの和音構成はイギリスのフォーク音楽の要素を取り入れたものであり、パーカッションのパターンが楽曲全体を通して一定であることが、工場の機械的な労働を連想させる。サクソフォンの旋律やコーラスのブラスセクションは、炭鉱コミュニティの伝統的なブラスバンドを想起させる。

リリース

この楽曲は『The Dream of the Blue Turtles』のアナログ盤・カセット盤ではB面の最初に収録され、アルバム全体の6曲目にあたる。1986年にドイツ、オーストラリア、ニュージーランドでシングルとしてリリースされ、B面にはアルバムのタイトル曲「The Dream of the Blue Turtles」が収録された。

影響

「We Work the Black Seam」はスティングの音楽的・政治的スタンスを反映した楽曲として評価され、彼の環境問題に関する最初のプロテスト・ソングの一つと考えられている。

歌詞の意味

この曲はエネルギー政策の転換によって職を奪われた炭鉱労働者の視点から、産業の変化とその背後にある政治的・経済的理屈への怒りを描いている。冷たい経済理論が地域社会や労働者の現実を無視して進められ、長年の労働で国を支えてきた人々の存在が切り捨てられていく過程が語られる。地下深くで築かれてきた労働の歴史は国の魂と結びつくものとして示され、それを数値や効率で置き換える政策への反発が強調されている。

原子力エネルギーの導入は、清潔で安価だと宣伝されながらも制御不能な危険性や長期にわたる放射性廃棄物の問題を孕んでおり、その矛盾が批判的に描かれる。労働者の顔を汚す煤は消えても、十二万年規模の汚染を残す現実が対比され、近代化の代償が強く意識される。

曲の終盤では、社会の変化に取り残される不安や、次の世代へ負の遺産を残してしまうかもしれないという悲しみがにじむ。宇宙的な視点を導入することで、個人の怒りと喪失がより大きな歴史の流れと結びつけられ、産業変革がもたらす痛みの深さが浮かび上がる内容になっている。