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曲情報
U2の「One」(ワン)は、アイルランドのロックバンドU2の楽曲であり、1991年の7枚目のアルバム『Achtung Baby』に収録された3曲目のトラック。1992年2月24日にアルバムから3枚目のシングルとしてリリースされた。ベルリンのハンザ・スタジオでアルバムのレコーディングが行われた際、U2のメンバー間ではバンドのサウンドや楽曲の質をめぐって対立が生じ、解散の危機を迎えるほど緊張状態に陥っていた。しかし、ギタリストのエッジが提示したコード進行をもとに即興で仕上げたこの曲が大きな突破口となり、バンドは再び一体感を取り戻すに至った。ボノが書いた歌詞は、メンバー同士の関係性の亀裂やドイツ再統一などに触発されており、一見すると「不和」を描いているかのようだが、さまざまな解釈が存在している。
この曲はエイズ研究への寄付を目的としたチャリティ・シングルとしてリリースされ、アイルランドのシングルチャートやカナダのRPMチャート、アメリカのビルボード・アルバム・ロック・トラックスとモダン・ロック・トラックスで1位を獲得した。ニュージーランドでは3位、オーストラリアでは4位、イギリスのシングルチャートでは7位、ビルボードHot 100では10位を記録している。プロモーションのため複数のミュージックビデオが制作されたが、バンドが満足できるものに仕上がるまでには時間がかかった。
発表当初から批評家たちに高く評価され、さまざまな「史上最高の楽曲」ランキングに名を連ねるようになった。1992年に初めてライブ演奏されて以降、U2のほとんどのツアーで披露されており、多くのコンサート映像作品にも収録されている。また、ライブパフォーマンスでは人権や社会正義を訴えるメッセージを込めることが多く、ボノが立ち上げた慈善団体「ONEキャンペーン」の名称ともリンクしている。2005年にはR&Bシンガーのメアリー・J. ブライジとのデュエット版が彼女のアルバム『The Breakthrough』に収録され、2023年には『Songs of Surrender』の一環として再録音が行われた。
作詞・レコーディング
1990年10月、U2はドイツ再統一の直前にベルリンに入り、『Achtung Baby』のレコーディングを開始した。新たなヨーロッパの気運に触発されることを期待していたが、実際にはスタジオの雰囲気は暗く、バンド内の意見対立は深刻化していった。アダム・クレイトンとラリー・マレンJr.は従来のU2らしいサウンドを望んでいたのに対し、ボノとエッジはヨーロッパのインダストリアルやダンス・ミュージックから影響を受けた新しい方向性を求めていた。その結果、デモの段階で行き詰まり、メンバーは「本当にバンドを続けられるのか」という危機感を抱くまでになった。
しかし、「Sick Puppy」(後の「Mysterious Ways」の原型)をジャムしていた最中に、エッジが試したコード進行がきっかけで「One」のリフが生まれ、短時間で曲の全体像が完成した。ボノは「メロディも構成も15分ほどでまとまった」と振り返っている。歌詞は、バンド内のぎくしゃくした人間関係やドイツ再統一への思い、そしてヒッピー的な「すべてが一つになる」イメージへの懐疑心などが反映されている。ボノがダライ・ラマからの「ワンネス」フェスへの招待を断る際に書き添えたメッセージ「One―but not the same」が曲のテーマを象徴しているとされる。
この曲が生まれたことでセッションの雰囲気は好転し、バンドは再びアルバム制作に前向きになった。ブライアン・イーノやダニエル・ラノワといった共同プロデューサーらの助言を受け、過度に美しくなりすぎないようにギターの「泣き」のニュアンスを加えたり、アコースティックギターのパートを削除するなどの調整が行われた。
コンポジション
「One」は4分の4拍子、テンポはおよそ91BPMのロック・バラードであり、ヴァースではAm–D5–Fmaj7–G、サビではC–Am–Fmaj7–Cといったコード進行が用いられている。表面的には「不和」や「断絶」を描いた曲のように受け取られることも多いが、ボノは「世界は一つだが、同じではない。好き嫌いに関わらず一緒にやっていかなくてはならない」というメッセージを込めていると説明している。エッジは曲の一面を「ひどく傷ついた人同士の苦い対話」と表現しつつ、「でもサビの『we get to carry each other』に宿る“恵み”こそ重要だ」と語る。なお、歌詞の内容から「結婚式で使いたい」という声も多いが、ボノは「この曲は実際、別れをテーマにしている部分もある」と述べている。
リリース
「One」は『Achtung Baby』からの3枚目のシングルとして1992年2月24日に発売され、収益はエイズ研究のための慈善団体に寄付された。当時、U2のマネージャーだったポール・マクギネスは、「エイズこそが今最も深刻な問題だと考えている。多くの人々の注意をそこへ向けたい」と語っている。Zoo TVツアーでのコンサート会場では安全なセックスを啓発するため、『Achtung Baby』のロゴをあしらったコンドームが販売されるなど、積極的なキャンペーンが行われた。
このシングルはイギリスのシングルチャートで7位、ビルボードHot 100で10位に入り、アルバム・ロック・トラックスやモダン・ロック・トラックスでは1位を獲得した。ジャケットにはデイヴィッド・ヴォイナロヴィッチの作品が採用され、崖から転落するバッファローを写した写真が「自分の意思とは関係なく突き落とされる存在」を象徴しているとされる。
ミュージックビデオ
「One」のミュージックビデオは3種類制作された。1作目はアントン・コービンによるもので、ベルリンの街並みやハンザ・スタジオで演奏するU2の姿が映し出されるが、メンバーがドラァグ姿を披露するシーンもあり、エイズ慈善シングルとの関連から誤解を招く可能性があるとしてお蔵入りに近い扱いとなった。
2作目はマーク・ペリントンが監督を務め、花の開花やバッファローが走るスローモーション映像を用いてジャケット写真「Falling Buffalo」のイメージと結びつける演出がされているが、これもシングルとしての宣伝には使われなかった。最終的にフィル・ジョアノーが監督を担当した3作目のビデオが、マンハッタンのナイトクラブでボノがチェルートをくわえながらビールを飲む姿とコンサート映像を交互に映し出す構成で、一般的なプロモーションビデオとして広く知られるようになった。
歌詞の意味
この曲は壊れかけた関係のなかで愛と責任の意味を問い直す構造をとっている。冒頭では、関係が改善しているのか、相手が同じ痛みを抱えているのかを確かめようとする姿勢が示され、互いに負わせてきた傷が暗黙の問題として横たわる。語り手は、共有されるべきはずの愛が、無関心によって容易に失われる脆さを指摘し、保つためには相互の配慮が不可欠であるという認識を提示する。
続く展開では、失望や感情の断絶が率直に語られ、過去を蒸し返しても意味がないという諦観が示される。同時に、完全な一致には至らなくとも、互いを支え合う必要があるという逆説的な結論が導かれる。赦しや救済を求める問いかけは、相手に過度な役割を投影してしまう危うさを含み、双方が傷つけ合いながらも同じ行動を繰り返してしまう人間関係の循環性が浮き彫りになる。
愛を聖域や法に例える比喩は、高い理想と現実の不均衡を象徴している。招き入れるように見せかけながら相手を低く扱う矛盾が指摘され、語り手は痛みしか返ってこない状況にとどまることができないと示唆する。
終盤では、人間同士は完全に同じではないが、互いに背負い合うことで生を共有できるという核心が再確認される。分断と和解が交錯しながら、最小単位の連帯としての「一つであること」が強調される構造になっている。


