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曲情報
「With or Without You(ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー)」は、アイルランドのロックバンドU2(ユーツー)の楽曲であり、1987年のアルバム『The Joshua Tree』の3曲目に収録されている。1987年3月16日にアルバムのリードシングルとしてリリースされ、当時のバンドにとって最も成功したシングルとなった。この曲はアメリカ合衆国のBillboard Hot 100で3週間にわたり1位を獲得し、カナダのRPMシングルチャートでも1週間1位、その後3週間2位を記録した。
「With or Without You」は、ギタリストのエッジが試作段階のインフィニット・ギターを用いた持続音のギターサウンド、ボノのボーカル、ベーシストのアダム・クレイトンによるベースラインが特徴のロックバラードである。楽曲の原型は1985年後半に録音されたデモであり、『The Joshua Tree』のレコーディングセッションを通じて制作が続けられた。表面的には恋愛に関する楽曲のように思われるが、ボノがミュージシャンとしての生活と家庭人としての生活の間で揺れる自身の感情を歌詞に込めたものである。
リリース当初から批評家に高く評価され、U2のツアーでは頻繁に演奏されてきた。また、バンドの多くのコンピレーションアルバムやコンサートフィルムにも収録されている。「With or Without You」は、U2の楽曲の中で2番目にカバーされた回数が多い楽曲であり、2004年には『ローリング・ストーン』誌の「史上最高の楽曲500選」で131位にランクインした。
作詞・作曲と録音
1985年後半、U2はドラマーのラリー・マレン・ジュニアが購入した家で、アルバム『The Unforgettable Fire』ツアー中に書かれた楽曲の見直しを行った。この期間に「With or Without You」の原型となるデモが作られ、ボノがコード進行を考案した。バンドはダブリンのSTSスタジオで楽曲のアレンジを試みたが、多くのバージョンを制作しながらも納得のいく形にはならなかった。エッジは当時の楽曲について「ひどい出来だった」と振り返っている。
1986年、バンドはダブリンのデーンズモート・ハウスで『The Joshua Tree』の本格的なレコーディングを開始。共同プロデューサーのブライアン・イーノとダニエル・ラノワの指導のもと、エッジはアンビエントなギター演奏を模索し、クレイトンはベースの音量を上げ、マレンは電子ドラムキットを試すなど、新たなアプローチを試みた。しかし、バンドは満足のいくアレンジを見つけることができず、一時はこの曲を放棄することも考えていた。
その後、ボノと親友のギャヴィン・フライデーが楽曲の再編に取り組み、ボノはこの曲がヒットする可能性があると確信。イーノは「Bad」のようなキーボードアルペジオを加え、曲の雰囲気を調整した。この楽曲の運命を決定づけたのは、エッジがカナダ人ミュージシャンのマイケル・ブルックと共同開発したインフィニット・ギターの試作品を手に入れたことだった。このギターは、持続音を自在に操ることが可能であり、従来のE-Bowにはない音の変化を生み出せるものであった。
エッジがコントロールルームで楽曲のバックトラックを聴いていたとき、別室でインフィニット・ギターを演奏していた音が偶然重なり合い、独特の響きを生み出した。このサウンドを聴いたラノワは「これはすごい」と驚き、すぐに録音を決定。エッジは2回のテイクでこのギターパートを録音した。バンドは、この楽曲のレコーディングをアルバム制作の「突破口」と捉え、アイデアの枯渇を感じていた時期に新たな方向性を見出した。
イーノはYamaha DX7シンセサイザーを用いて電子ドラムのビートをプログラムし、その音を直接録音機器に接続するのではなく、Mesa Boogieギターアンプを通して録音することで、より生々しい音を作り出した。このアプローチにより、楽曲は「部屋の中で人々が演奏しているような感覚」を得ることができた。
スティーブ・リリーホワイトが1986年12月にU2のミキシング作業を手伝うために招かれ、「With or Without You」のミキシングにも関与した。リリーホワイトは、ドラムの音を強調する方向でのミックスを提案したが、イーノは「もっと神秘的でサポート的な役割にすべき」と反対し、最終的に異なる意見の中で調整が行われた。
楽曲の構成と解釈
「With or Without You」は4/4拍子で、テンポは110BPM。伝統的なヴァース・コーラス形式ではなく、各セクションが独自の展開を見せる構成となっている。ラノワは「この曲には緊張感があり、ロイ・オービソンの名曲のように、各セクションが繰り返されずに進行するのが魅力だ」と述べている。
楽曲の冒頭では、マレンのシンプルなドラムビートに続き、イーノのシンセサイザーがDメジャーのアルペジオを奏でる。エッジのインフィニット・ギターが左チャンネルで「ドライ」に演奏され、右チャンネルでリバーブを伴って響く。0:09にはクレイトンのベースがキックドラムと同期し、D–A–Bm–Gのコード進行が暗示される。
ボノのボーカルは低音域で始まり、曲が進むにつれて徐々に感情を高めていく。1:53からはエッジの特徴的なギターリフが入り、2:06と2:32で「And you give yourself away」のコーラスが重なる。3:03にはボノのオープン・スロートの「Oh-oh-oh-ohh」が入り、曲が最高潮に達する。
歌詞は恋愛の葛藤を描いたものとされるが、宗教的な解釈も可能である。『ワシントン・ポスト』は「With or Without You」を「恋愛の皮肉な歌であると同時に、信仰における道徳的矛盾を嘆く楽曲」と解釈している。ボノは1987年に「And you give yourself away」のフレーズについて、自身の公私の葛藤を象徴するものと語っている。
歌詞の意味
この曲は離れ難い執着と耐え難い痛みが同時に存在する関係を描いている。語り手は相手に深く惹かれながらも、その愛が自分を傷つけていることを理解しており、手放すことも、そばに居続けることもできないという矛盾した状態に置かれている。相手の内面的な苦悩や距離を象徴する描写を前にしつつ、語り手は待ち続ける姿勢を崩さず、関係の不均衡と依存の構造が浮かび上がる。
相手が自己を与え続けているにもかかわらず、語り手は満たされず、さらに多くを求めてしまうという葛藤が示され、愛が支えではなく過度な負荷として作用する様子が強調されている。身体的・精神的な束縛や疲弊を表す描写は、関係が限界を超えつつも断ち切れない状態を象徴しており、勝ちも負けもない消耗戦のような愛の姿が刻まれている。
全体として、愛の欠落と過剰が同時に存在する矛盾を中心に据え、離れても一緒でも生きられないという極端な感情の閉じ込められ方を反復的な表現によって強調する構成になっている。

