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「The Entertainer」(ジ・エンターテイナー)は、ビリー・ジョエルが1974年のアルバム『Streetlife Serenade(ストリートライフ・セレナーデ)』から唯一シングルカットした楽曲である。アメリカではBillboardチャートで最高34位を記録した。
この曲は、ミュージシャンの栄光の儚さと移ろいやすい大衆の嗜好に対する皮肉と風刺に満ちた視点で描かれている。たとえば「Today I am your champion / I may have won your hearts / But I know the game / You’ll forget my name /(And I won’t be here / in another year)/ if I don’t stay on the charts」という歌詞では、ヒットチャートにとどまり続けなければすぐに忘れ去られるという芸能界の現実を表現している。このテーマは、後の楽曲「It’s Still Rock and Roll to Me」にも引き継がれている。
作曲とリリース
曲中の一節では、ジョエルの代表曲「Piano Man」がラジオの放送枠に収めるために5分40秒から3分5秒へと短縮されたことが言及されており、「It was a beautiful song, / but it ran too long /(If you’re gonna have a hit, you gotta make it fit)/ So they cut it down to 3:05」という形で皮肉が込められている。実際、シングル盤のラベルには3:05と表記されていたが、実際の長さは3:11で、アルバムバージョンでは3:41だった。
シングルバージョンでは、アルバムバージョンで1分2秒から始まる3番のヴァースが編集でカットされており、0分40秒から始まる2番の後半にはスティールギターが追加されている。これは本来アルバム版の3番に登場する要素であり、シングルミックスでは3番のインストゥルメンタル要素を2番に先取りして取り込む形になっている。その結果、2番のオリジナルの伴奏(シンセによる下降音など)および3番のヴォーカルは完全にカットされ、3番の伴奏(スティールギター入り)のみが先行して登場する構成となった。
一部のシングル盤では、B面に「The Mexican Connection(ザ・メキシカン・コネクション)」が収録されていた。
『Billboard』誌はこの曲を『Streetlife Serenade』の「ベスト・トラックの一つ」と評し、『Cash Box』誌は「『Piano Man』以来最も強力なシングル」として、「業界がアーティストにもたらす鋭いシニシズムに満ちた歌詞」と「力強い演奏とシンセサイザーの使用」を称賛している。『Record World』誌もまた「ウィットに富んだ作品」として評価し、「頂点に立つのは大変だが、そこへ登る道の方がさらに危険だ」というメッセージが込められていると述べている。
歌詞の意味
この曲は、エンターテイナーとして生きる者の栄光と孤独、そして業界の残酷さを皮肉たっぷりに描いてる。観客の前では輝いていても、その裏では人気を維持するために必死で走り続けなくてはならず、少しでも注目が落ちればあっという間に忘れ去られる世界にいる。成功しても安心はなく、常に順位や売り上げに追われる現実が重くのしかかっている。
経験を積むほど裏側の仕組みが見えてきて、誰かに揉み込まれ、誰かに利用され、それでも笑顔でステージに立たなければならないという諦観も匂う。世界中を回っても景色も出会いもどこか同じに感じ、忙しさに押し流されて大切な時間が奪われる。作り上げた曲は自分の誇りなのに、ヒットのためには短く切り詰められてしまうような、芸術と商業の板挟みも描かれている。
華やかに見えるステージの裏で、いつ売れなくなるかわからない不安や、商品として扱われる窮屈さがつきまとう。それでも観客の前に立ち、歌い続けるのは、自分がエンターテイナーという存在であることをよく理解しているから。力強さと虚しさが同居し、名声の儚さを淡々と語る一方で、それでも舞台に立ち続けるプロとしての苦味を帯びた誇りが浮かび上がる曲になってる。
セレナーダー(serenader)とは?
セレナーダー(serenader)とは、セレナーデ(serenade)を歌う人、特に恋人のために夜に歌を捧げる人。つまり、情熱的なラブソングの歌い手、またはロマンチストな演奏家を指す。


