【曲解説】Van Halen – JUMP

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曲情報

「Jump」(ジャンプ)は、アメリカのロックバンド、Van Halen(ヴァン・ヘイレン)の楽曲である。1983年12月に6枚目のスタジオ・アルバム『1984』からのリードシングルとしてリリースされた。Van Halenにとって最も成功したシングルであり、アメリカのBillboard Hot 100で1位を獲得した。従来のVan Halenの楽曲と異なり、キーボードのリフが主体となっているが、ギターソロも含まれている。デヴィッド・リー・ロスはこの曲を、自身の師匠である武道家ベニー “ザ・ジェット”・ユキーデに捧げている。2021年、『Rolling Stone』誌は「Jump」を「史上最も偉大な500曲」のリストで177位にランクインさせた。

「Jump」は、サミー・ヘイガー在籍時代のVan Halenのライブでも数少ないロス時代の曲として演奏されていた。

作曲と構成

シンセラインは1981年頃にエディ・ヴァン・ヘイレンによって作られたが、当初はバンドメンバーに却下されていた。1983年、プロデューサーのテッド・テンプルマンがこの未使用の曲案をデヴィッド・リー・ロスに聴かせた。ロスは1951年製のマーキュリーの後部座席に乗りながらバンドのローディーであるラリー・ホストラーの運転で繰り返しこの曲を聴いた。歌詞を考えるにあたり、ロスは前夜に見た自殺志願者に関するテレビのニュースを思い出した。彼は、そうした現場に居合わせた野次馬が「さあ飛び降りろ(go ahead and jump)」と叫ぶのではないかと考えた。このアイデアをホストラーに伝えると、彼も賛同した。しかし、歌詞は自殺を描写するのではなく、行動・人生・愛への招待として書かれた。ロスは後に『Musician』誌に、ホストラーが「出来上がりに最も貢献した人物かもしれない」と語っている。

曲はハ長調で構成されており、ギターソロ部分は変ロ短調となっている。「Jump」のテンポはモデラートで、拍子は4/4、BPMは129である。

テンプルマンによれば、「Jump」はエディ・ヴァン・ヘイレンの新設スタジオで録音された。「エンジニアのドン・ランディとエディが深夜に2人でトラックを録音した。我々は音質のために1テイクだけ録り直した。デイヴはその日の午後にマーキュリーの後部座席で歌詞を書き、ボーカルもその日に録り終え、夜にはミックスまで完了させた」という。

キーボードパートはOberheim OB-Xaで演奏されており、ライブではエディのシンセソロ「1984」に続いて「Jump」が演奏される。ロスとの再結成ツアーでは、この2曲がアンコールとして使用された。

Hall & Oates(ホール&オーツ)のダリル・ホールによると、「エディ・ヴァン・ヘイレンは『Kiss on My List』からシンセパートをコピーして『Jump』に使った」と語っている。

音楽的には、バンドの原点から離れ、よりポピュラーでラジオ向けのサウンドを取り入れたものである。「Jump」は「シンセ・ロック」、「ハードロックとポップの融合」、「1980年代のポップ・ロックの典型」といった評価を受けており、クラシック・ロックの反復ベースと標準的なロック編成が特徴であるとされている。また、「真のロックの傑作」や「ポップ/グラム・メタルのアンセム」とも形容されている。

ミュージックビデオ

「Jump」のミュージックビデオは、ピート・アンジェラスとデヴィッド・リー・ロスが監督した。シンプルなパフォーマンス映像で構成されており、MTVビデオ・ミュージック・アワードでは3部門にノミネートされ、「最優秀ステージパフォーマンス賞」を受賞した。ビデオ版の音声ミックスでは、最後のサビ前にロスの「Ah oh oh!」という叫びが追加されている。

2011年刊行の『MTV Ruled the World: The Early Years of Music Video』において、アンジェラスはこのビデオについて「本当にパーソナリティだけで構成された。とてもシンプルで、制作費はほぼゼロに等しかった。ピザの配達代の方が高かったかもしれない」と語っている。

スポーツアンセムとしての使用

1986年12月以降、フランスのスタッド・ヴェロドロームでは、オリンピック・マルセイユのホームゲームの選手入場曲として使用されている。

イタリア・セリエAのACミランでは、サン・シーロでのゴール時にゴールセレブレーション曲として流れる。

NBAのデトロイト・ピストンズでは、ジャンプボールの際に常にこの曲が使用されている。

NHLのウィニペグ・ジェッツ(旧チーム)は、リンクへの登場時にこの曲を使用していた。1996年にチームがフェニックスへ移転するまで続けられ、2011年の新チーム発足後には一度使用が見送られたが、2016年にはゴールソングとして復活した。

1984年から1985年にかけて、シカゴ・カブスのWGN-TVによる試合中継のオープニングテーマにも使用され、1回表前に選手がフィールドへ登場する際のBGMでもあった。

歌詞の意味

この曲は、困難の中にいても思い切って飛び込め、というメッセージをロック的な勢いと明るさで押し出すポジティブ・アンセムである。主人公は人生で壁にぶつかり、くじけそうになる瞬間があっても、立ち止まらず“ジャンプ”することで前へ進めると語りかける。

最初のヴァースでは、人生で色々と押しつぶされそうになる瞬間があっても、それに負けずに立ち上がる姿勢が示される。相手にも「どう感じているかは分かる」と共感しつつ、本当に欲しいものを掴むには衝撃や痛みを受けながらでも前に進む必要がある、と励ます。

プレコーラスでは、主人公が現実の厳しさと向き合いながらも、「自分は最悪じゃない、まだやれる」という自信をにじませる。背を機械(レコードマシン)に預けて立っているという表現は、逃げない姿勢や踏みとどまる強さを象徴している。

サビの「Jump」は、思い切って行動すること自体を象徴するシンプルで強力なキーワードで、楽曲の主題そのもの。迷うくらいなら踏み出せ、という勢いがそのまま音と歌詞に重なる。

二つ目のヴァースでは、誰かに声をかけられ、躊躇している相手に「始めてみなければ分からない」と言う。未来を知る唯一の方法は動くこと、というメッセージが核心になる。

曲後半はギターとキーボードの熱いソロが続き、主人公の“飛び込む勇気”を音楽的に表現するパートへ移行する。これは「考えるな、感じろ」「とにかく前へ」という楽曲の勢いそのものでもある。

全体として「Jump」は、不安や迷いを抱えながらも、挑戦に踏み出す人の背中を力強く押す応援歌のような作品。悩むよりも飛ぶ、考えすぎずに動く、その衝動を音楽に落とし込んだ非常にポジティブなロックソングとなっている。

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