【曲解説】The Beatles – Anna (Go to Him)

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曲情報

「Anna(Go to Him)」(アンナ・ゴー・トゥ・ヒム)は、アメリカのシンガーソングライター、Arthur Alexander(アーサー・アレクサンダー)が作詞作曲し、最初に録音した楽曲。彼のバージョンはDot Recordsから1962年9月17日にシングルとして発売された。イギリスのロックバンド、The Beatles(ザ・ビートルズ)がカバーし、1963年のデビュー・アルバム『Please Please Me』に収録された。また、スペイン語によるカバーがGrupo Pegasso(グルーポ・ペガッソ)によって1996年のアルバム『Amor Vendido, Vol. 4』に収録され、2019年には英語版も発表された。

背景と歌詞

アレクサンダーは、この曲の歌詞を、後に妻となる当時の恋人Ann(アン)との関係初期をもとに書いたという。彼女の裕福な家の元恋人が彼女を取り戻そうとした経験がモチーフとなっている。伝記作家Richard Younger(リチャード・ヤンガー)によれば、「結婚生活で不貞を働いたのはアレクサンダーの方だったにもかかわらず、この曲では自らを捨てられた恋人として描いている」という。ヤンガーによると、アレクサンダーは、妻がその元恋人を選ばなかったことを後悔しているように感じたと述べている。なお、彼とアンの結婚は後に離婚に終わっている。

曲のタイトルとは異なり、歌詞の中では一貫して「go with him(彼と行け)」というフレーズが繰り返され、「go to him(彼のもとへ行け)」とは歌われていない。また、「Ann」ではなく「Anna」とした理由について、アレクサンダーは「Annよりも音の収まりが良かったから」と述べている。

ビートルズのバージョン

「Anna(Go to Him)」は、John Lennon(ジョン・レノン)のお気に入りの楽曲のひとつであり、ビートルズの初期のレパートリーに取り入れられた。1963年のデビュー・アルバム『Please Please Me』に収録されている。

アメリカでは、Vee Jay Recordsが1964年1月10日に『Introducing… The Beatles』で、Capitol Recordsが1965年3月22日に『The Early Beatles』でそれぞれこの曲を収録した。また、Vee JayはEP『Souvenir of Their Visit: The Beatles』にも収録している。

録音

この曲は1963年2月11日に3テイク録音され、テイク3がマスターとなった。2月25日にリミックスが行われた。ジョージ・ハリスンがギターで印象的なフレーズを演奏しており、原曲ではFloyd Cramer(フロイド・クレイマー)がピアノで同様のフレーズを奏でていた。

ビートルズはこの曲を1963年6月17日にBBCラジオ番組『Pop Go the Beatles』向けに再録音し、同年6月25日に放送された。

評価

音楽評論家Richie Unterberger(リッチー・アンダーバーガー)はこのビートルズ版を高く評価しており、「Ringo Starr(リンゴ・スター)は原曲にある独特のドラムとハイハットのリズムを忠実に再現しており、レノンのボーカルは特にブリッジの高音域で痛切な苦悩を表現している。バックのハーモニーも原曲以上に効果的だ」と述べている。

一方でIan MacDonald(イアン・マクドナルド)は、レノンのボーカルについて「若者が大人の歌に必死に取り組んでいるように聞こえる」と評した。なお、Mark Lewisohn(マーク・ルイソン)など多くの資料が指摘するように、レノンはこの録音当日風邪をひいており、声に影響が出ていたという。

歌詞の意味

この曲は愛する相手を手放さなければならない痛みを、静かな優しさと諦めの混じった切なさで描いている。自分の愛情は変わらないのに、相手が別の人のもとへ行きたいと願うなら、苦しくても自由にしてあげようとする姿が中心にある内容。これまで何度も恋に傷つき、ようやく出会えた大切な人だったのに、また同じように胸が締めつけられる別れが訪れてしまうという悲しみがにじむ。それでも恨まず、最後の瞬間まで相手を気遣い、指輪を返してくれれば解放すると伝える静かな誠実さが胸に残る。愛しているからこそ送り出すという苦い優しさに満ちた曲になっている。

指輪を返す?

この部分の歌詞は今の日本人の価値観から見ると金銭的な理由に見えてしまうが、1960年代当時のアメリカ南部の恋愛ソングにおいて、婚約指輪やペアリングは関係の証明だったため、「返す」=関係の終わりをはっきりさせる儀式的な行為であった。

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