【曲解説】The Beatles – I Am the Walrus

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曲情報

「I Am the Walrus」(アイ・アム・ザ・ウォルラス)は、イギリスのロックバンド、ビートルズが1967年のテレビ映画『マジカル・ミステリー・ツアー』のために制作した楽曲である。ジョン・レノンによって書かれ、レノン=マッカートニー名義でクレジットされており、シングル「Hello, Goodbye」のB面として、またEPおよびアルバム『マジカル・ミステリー・ツアー』にも収録された。映画では、無人の飛行場でメンバーがこの曲を口パクで演じるシーンに使用されている。

当時、ビートルズの歌詞に対して学術的な深読みをするリスナーが現れ始めていたことに対し、レノンは彼らを混乱させる目的でこの曲を書いたとされる。着想の一部にはLSDによる2回のトリップや、ルイス・キャロルによる1871年の詩「セイウチと大工」が影響している。ジョージ・マーティンによる編曲により、バイオリン、チェロ、ホルン、クラリネットが加えられ、さらにプロのスタジオ歌手16人からなるマイク・サムズ・シンガーズが参加し、ナンセンスな言葉や叫び声などを歌っている。

「Hello, Goodbye」シングルと『マジカル・ミステリー・ツアー』EPがともにイギリスのシングルチャートで1位と2位を同時に記録したことで、「I Am the Walrus」はその両方の順位に同時に到達した楽曲として知られる。また、「Boy, you’ve been a naughty girl, you let your knickers down(悪い子だね、パンツを下ろした)」という歌詞が問題視され、BBCによって放送禁止処分を受けた。

作者イアン・マクドナルドによれば、本作のモデルとなったのは1967年半ばにヒットし、レノンのお気に入りでもあったプロコル・ハルムの「青い影(A Whiter Shade of Pale)」とされている。歌詞は、警察のサイレンを聞いたことに始まる3つの異なるアイデアを組み合わせて構成された。さらに、ビートルズの過去曲「Lucy in the Sky with Diamonds」への言及や、ルイス・キャロルの詩に登場する「セイウチ」が引用されている。後にレノンは、セイウチが悪役であったことに気づき、「間違ったほうを選んだ」と語っている。

また、レノンの旧友ピート・ショットンとの会話の中で子どもの頃のナンセンスな詩を思い出し、その中の一節「yellow matter custard, green slop pie…」からいくつかのイメージを借用した。さらに、「waiting for the man to come」というフレーズはショットンの提案で「waiting for the van to come」に変更された。

この曲の作詞過程は、公式伝記作家ハンター・デイヴィスが1968年の著書で記録しており、レノンは「連中に解釈させてみろ」と語ったとされる。ビートルズが1968年初頭にインドで超越瞑想を学んでいた際、ジョージ・ハリスンは本作の歌詞の一部に自分の個人マントラが含まれていることを記者に明かしている。

パティ・ボイドによれば、「semolina pilchard」というフレーズは、当時ロンドンの音楽シーンを取り締まっていた麻薬取締官ピルチャー巡査を皮肉ったものである。レノン自身は1980年の『プレイボーイ』誌のインタビューで、歌詞中の「Elementary penguin」はアレン・ギンズバーグやヒッピー文化の偶像崇拝を揶揄したものであると語っている。

このように、「I Am the Walrus」は意味を解読しようとする者を煙に巻くよう意図された作品であり、同時にレノンのナンセンスと風刺精神が詰まった代表的な楽曲のひとつである。

歌詞の意味

この曲は意味が通るようで通らない奇妙な映像が次々と重なり、夢とも幻覚ともつかない混沌の世界に沈み込んでいくような感覚を描いている。主人公は自分も周囲も境界があいまいになった存在として語られ、論理よりも音の響きや言葉の並びによって独特のリズムが生まれている。逃げ惑う人々や奇妙な人物たちが散りばめられ、滑稽さと不気味さが入り混じった風景が続いていく。全体に、無意味なようでいて社会への皮肉や人間の愚かさをほのめかす要素が潜み、現実世界の秩序をひっくり返したような混沌が支配している。語りの後半には異質な声や引用が入り込み、さらに夢の奥へと落ちていくように世界が歪んでいき、結末は収束せずに不条理の余韻だけが残る。こんな風に、言葉の遊びと幻想的なイメージを極端に押し出した、解読より体感が前に来るような曲になっている。

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