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曲情報
「God Only Knows(ゴッド・オンリー・ノウズ)」は、アメリカのロックバンド、ビーチ・ボーイズが1966年に発表したアルバム『Pet Sounds(ペット・サウンズ)』に収録された楽曲。
バロック音楽風のラブソングであり、その和声の革新性と複雑さ、特異な楽器編成、歌詞・音楽の両面におけるポピュラー音楽の慣例の転覆によって高く評価されている。しばしば史上最高の楽曲のひとつ、またビーチ・ボーイズの代表作として称賛されている。
音楽的特徴と歌詞
この楽曲の音楽的洗練さは、3つの対位法的なボーカルパートと、EとAのキーの間で競合する不安定な調性に表れている。歌詞は、語り手が恋人を失った人生など神しか想像できないと述べる視点から描かれており、「God(神)」という語をタイトルや歌詞に用いることが当時のポップ音楽ではタブーとされていた中での大胆な表現だった。
この楽曲は、ビーチ・ボーイズの中心人物であるブライアン・ウィルソンにとって新しい挑戦であり、共作者トニー・アッシャーのスタンダード曲への親和性、特に「Stella by Starlight(星影のステラ)」のような作品から影響を受けたとされる。一部の評論家はこの楽曲に自殺願望のような要素を読み取っているが、作詞者たちはそのような意図を否定している。また、その高度な和声構造はドリーブ、バッハ、ストラヴィンスキーといったクラシック作曲家に喩えられることもある。
レコーディングと構成
レコーディングは1966年3月から4月にかけて行われ、約20人のセッション・ミュージシャンが参加。ドラム、スレイベル、プラスチックのオレンジジュース用カップ、クラリネット、フルート、ストリングス、フレンチホルン、アコーディオン、ギター、アップライト・ベース、ハープシコード、タックピアノ(弦にテープを貼ったピアノ)などが使用された。
リードボーカルはブライアンの弟カール・ウィルソンが担当し、これは彼の最高の歌唱のひとつと評価されている。ブライアン自身とブルース・ジョンストンがコーラスを加え、楽曲の最後は当時のポップスでは珍しい輪唱形式で締めくくられる。
リリースと評価
「God Only Knows」は1966年7月、「Wouldn’t It Be Nice」のB面としてアメリカでリリースされ、Billboard Hot 100で39位を記録。一方でイギリス、カナダ、ノルウェー、オランダではA面としてリリースされ、いずれもトップ10入りを果たした。
ポール・マッカートニーやジミー・ウェッブをはじめ多くの作曲家がこの曲を「最も好きな曲」として挙げている。2004年にはロックの殿堂「ロックンロールを形作った500曲」に選ばれ、2021年には『ローリング・ストーン』誌の「史上最高の500曲」ランキングで11位に選出された。
インスピレーション
「God Only Knows」は、ウィルソンとアッシャーが『Pet Sounds』のために共作した複数の楽曲のひとつであり、アッシャーはこの曲がもっとも自然に生まれた作品だと語っている。彼によれば「歌詞よりも楽器構成に多くの時間をかけていた」という。
ウィルソンは、自身がこれまで書いたことのないタイプの曲であり、アッシャーが「Stella by Starlight」のような古典的楽曲に親しんでいたことが影響したと認めている。また、1965年のラヴィン・スプーンフルによるヒット曲「You Didn’t Have to Be So Nice」の声の重ね方に影響を受けた可能性もあるという。
さらに、ウィルソンはビートルズのアルバム『Rubber Soul』(1965年12月発売)に触発され、マリファナの影響下でこの曲の作曲に取りかかったとも述べている。
『Pet Sounds』についてのインタビューでは、ウィルソンはアルバムのスピリチュアルな側面を強調し、兄弟のカールとともに祈りの時間を持ち、「宗教的儀式のように作った」と語っている。妻である歌手マリリン・ロヴェルに宛てた手紙には「神が私たちを引き離すまで君のもの」と書かれていたという。
歌詞の意味
マリリン・ウィルソンは初めてこの曲を聴いたとき、「神(God)」という言葉をレコードで使うことに驚き、「あまりに宗教的で保守的すぎる」と感じたと語っている。
当時、「God」や「hell」「damn」などの語句を含む曲は放送禁止となることもあったため、アッシャーとウィルソンはこの語を使うべきか長く議論したという。しかし、周囲から「物議を醸すことで逆に斬新に映る」と助言され、ウィルソンはそれを受け入れた。
歌詞は、語り手が恋人との関係の終焉を予感し、「もしあなたがいなければ、生きる意味などない」と訴える構成となっている。冒頭の「I may not always love you(いつもあなたを愛しているとは限らない)」という一節は、作詞者間で意見が分かれたが、アッシャーはあえてこの逆説的な始まりを主張した。
マリリンはこの歌詞をブライアンの自伝的表現だと感じ、「私は彼のそばを離れないと彼は知っていたからこそ、彼は私を軽んじても大丈夫だと思っていた」と語っている。
『Pet Sounds』収録曲の中で、最も歌詞が曖昧だとされるのがこの曲であり、一部の批評家は歌詞に自殺願望を読み取っている。2番の「life would go on… should you ever leave me(君がいなくても人生は続くだろう)」に続く「what good would living do me?(でも生きていて何の意味がある?)」という一節がその根拠となっているが、作者たちはその解釈を否定している。
評論家ジェームズ・ペローネは、この曲を「1960年代のポップソングにおける、最も異色の愛の表現のひとつ」と呼び、共依存的な愛の在り方を示唆するものと捉えている。『Cash Box』誌は「ゆったりとしたテンポのロマンチックな頌歌であり、恋人なしでは生きていけない男の思いを描いた」と紹介した。
アッシャーによれば、この曲の意図は「太陽が燃え尽きるまで君を愛し続ける」というものであり、ウィルソンは「盲目であることによって逆に見えるものがある。目を閉じることで、場所や出来事を視覚化できる」と説明している。


