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曲情報
“One More Try” は、イギリスの歌手・ソングライター、ジョージ・マイケルがデビューソロアルバム『Faith』(1987) に収録した楽曲。1988年4月11日にコロムビア・レコードからアルバムの4作目のシングルとして発売された。
楽曲は全米 Billboard Hot 100、Hot Black Singles、Hot Adult Contemporary のすべてで1位を獲得した。ミュージックビデオはトニー・スコットが監督し、オーストラリアで撮影された。
Background(背景)
約6分あるバラードで、歌詞は「何度も傷ついてきた若い男性が、新しい恋愛に踏み出す(あるいは戻る)ことをためらう気持ち」を扱っている。楽曲は最後に誘惑が勝り、タイトルのフレーズをそこで初めて歌って終わる。
1988年、マイケルは『Countdown』で、この曲が「8時間で書き、録音し、完成させた」と語っている。
“One More Try” はその後もライブで人気の曲となり、1993年12月1日にウェンブリー・アリーナで開催された “Concert of Hope” ではゴスペルバージョンが披露され、1996年に「Jesus to a Child」のシングルに収録された。
Critical reception(批評)
『Melody Maker』のトニー・リードは、「危険はうんざりだ、とジョージは歌う。これは『Faith』からの3枚目のシングルで、現在のワールドツアーでは観客のお気に入りらしい。だが、どんな危険だ?ミニバーのペリエが切れる危険?フィリシェーブの電池が切れる危険か?」と皮肉を交えて書き、楽曲を「とても、とても、ゆっくりしたバラード」と評した。
Chart performance(チャート成績)
イギリスでは全英シングルチャートで8位を記録し、アメリカでは Billboard Hot 100 で6曲目の1位となった。
『Faith』からのシングルのうち、4曲がアメリカで1位を獲得しているが、イギリスでは1位になった曲はなかった。
“One More Try” は『Faith』からの3作連続の全米1位シングルとなった。1988年4月16日付で40位に初登場し、「Father Figure」と同じスピードで7週目の1988年5月28日に1位に到達し、3週連続で1位を維持した。これはその年のシングルとして2番目に長い首位保持で、Poison「Every Rose Has Its Thorn」と並び、スティーヴ・ウィンウッド「Roll with It」の4週に次ぐ記録だった。
最終的にトップ10に7週間、トップ40に14週間ランクイン(全18週間チャート入り)。
Hot Black Singles と Adult Contemporary でも1位となり、白人男性アーティストが R&B/Hip-Hop チャート(当時の名称:Hot Black Singles)で1位を獲得した最後の例となった(次の白人男性1位は2007年のロビン・シック「Lost Without U」)。
Music video(ミュージックビデオ)
トニー・スコットが監督したシンプルなビデオで、マイケルが空っぽの部屋で一人歌う姿が映し出される。冒頭のショットは約2分続き、2番の冒頭で切り替わる。
部屋の窓からは青灰色の光が差し込み、孤独の象徴となっている。別の場面では、バスルームのガラス扉にハートを描こうとするが、悲しみによって完成させられない。家具には布が掛けられ、カーテンも閉められており、孤独のイメージが繰り返される。
撮影場所はオーストラリア・ニューサウスウェールズ州の Carrington Hotel。撮影当時は空き家で荒廃した状態だった。
歌詞の意味
この曲は深く傷ついた過去の恋の記憶が、次の恋へ踏み出す気持ちを何度も引き留めてしまう主人公の葛藤を描いてる。相手に惹かれているのは確かで、心が揺れる瞬間もあるのに、前の恋で学んだ痛みが「もう二度と同じ思いをしたくない」とささやき続ける。だから触れ合うことも、所有し合うような関係に踏み込むことも怖くなってしまっている。
主人公は“学びたくない”と言うけれど、それは無知でいたいということではなく、愛と別れが必ずセットで訪れる世界で「また泣く経験」を受け入れたくないという叫びに近い。相手が愛を口にしたとしても、それがどれほど続くのか、信じていいのか分からず、期待するほどに自分が傷つく未来が頭に浮かんでしまう。
かつては相手にひれ伏すように恋を始めてしまい、危険の予兆も見えなかった。その経験が心の温度を冷やし、もう誰かに依存したくないというプライドだけが残っている。それでも最後に「もしかしたら、あと一度だけ試してみてもいいのか」と心の奥の弱さが顔を出す。そのためらいこそが、本当はまだ愛したい、信じたいという願いの証拠でもある。
全体として、愛への恐れと、愛を欲しがる気持ちがぶつかり合い、孤独と希望のあいだで揺れる心の震えがそのまま刻まれた曲になっている。

