【曲解説】R.E.M. – Everybody Hurts

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曲情報

「Everybody Hurts(エヴリバディ・ハーツ)」は、アメリカのロックバンドR.E.M.が1992年に発表した8作目のスタジオアルバム『Automatic for the People』に収録された楽曲で、1993年4月にワーナー・ブラザース・レコードからシングルとしてリリースされた。作詞作曲はバンド全員にクレジットされているが、主にドラマーのビル・ベリーが手がけたとされる。プロデュースはスコット・リットとバンド自身が担当した。

全米Billboard Hot 100では最高29位にとどまったが、Cash Box Top 100では18位を記録し、オーストラリア、カナダ、フランス、アイスランド、アイルランド、オランダ、イギリスなどでトップ10入りを果たした。ミュージックビデオはテキサス州サンアントニオでジェイク・スコットが監督し、1994年のBillboard Music Video AwardsでPop/AC部門「年間最優秀クリップ賞」を受賞した。2003年には雑誌『Q』の「1001 Best Songs Ever」で31位にランクインし、2005年には『Blender』誌の「Greatest Songs Since You Were Born」で238位に選ばれている。

背景

楽曲の大部分はベリーが書いたが、彼のドラムはほとんど使われず、代わりにUnivoxのドラムマシンが使用された。ドラムパターンのサンプリングはベリーの手によるものである。ストリングスのアレンジは元レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズが担当した。

ギタリストのピーター・バックによれば、当初はカントリー&ウエスタン調の1分程度の曲で、サビもブリッジもなかったという。試行錯誤の末、オーティス・レディング「Pain in My Heart」のようなスタックス風のソウル・バラードの雰囲気に仕上げられた。アルバムのライナーノーツでは「歌詞が異例にストレートなのは、10代の若者を対象にしたから」と説明されている。バックは「高校が地獄への入口のようだ、という感覚はリアルだ」と語っている。2005年のBBCインタビューでは「大学に行っていない若者や、比較的若い世代に向けて、あえて直接的に書くのもいい」と述べている。2022年にはマイケル・スタイプが「Nazarethの“Love Hurts”のカバーから着想を得た」と明かした。

スタイプは当初、パティ・スミスにデュエット参加を依頼していたが実現せず、後にスミスは自身のカバーを2007年のアルバム『Twelve』のボーナストラックに収録している。

ミュージックビデオ

MVは1993年2月、サンアントニオのI-10とI-35の高架道路付近で撮影された。渋滞中の車内の人々の心の声が字幕で映し出され、途中で高架橋に立つ男性が本のページを車に投げ落とす。その字幕には詩篇61章と126章の一節が引用されている。やがて人々は車を降り、歩き出し、次第に姿を消す。その様子をニュースが伝える場面で映像は終わる。スタイプは映像の大半で沈黙し、最後の「Hold On, Hold On」でのみ声を発する。

この演出はフェデリコ・フェリーニの映画『8½』のオープニングの渋滞シーンに着想を得ている。MVは1994年のBillboard Music Video Awardsで最優秀Pop/ACクリップ賞を受賞。2009年には公式YouTubeチャンネルにHD版が公開され、2025年初頭までに1億6800万回以上再生されている。

歌詞の意味

この曲は、深い疲れや孤独に押しつぶされそうになったとき、それでも手を離さずにいてほしいという強い願いを、まっすぐで温かい言葉で伝えてる。終わりの見えない一日の重さや、誰にも届かないように感じる夜の孤独が心に影を落としても、それは誰もが経験する痛みであり、自分だけが取り残されているわけじゃないとそっと寄り添ってくる。

つらさが積み重なってもう無理だと思う瞬間にも、ここに留まってほしいと呼びかける声が続き、弱さを責めるのではなく、泣くことも迷うことも人間の自然な営みとして受け入れてくれる。友人や大切な人の存在が支えになり得ることにも触れ、孤独の渦の中でも、見えないところで繋がっている関係があると気づかせてくれる。

曲が進むにつれ、孤独に閉ざされた世界に小さな灯がともるように、何度も「踏みとどまって」という思いが繰り返される。その優しい反復は、崖っぷちに立つ誰かの肩にそっと手を置く仕草のようで、最後には決して一人じゃないと静かに伝えてくれる。苦しさの中にいる人に寄り添う、普遍的な慰めの歌になっている。