【曲解説】R.E.M. – Losing My Religion

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曲情報

「Losing My Religion(ルージング・マイ・リリジョン)」はアメリカのオルタナティヴ・ロックバンドR.E.M.の楽曲で、1991年2月19日にワーナー・ブラザース・レコードから7作目のスタジオ・アルバム『Out of Time』の先行シングルとしてリリースされた。ギタリストのピーター・バックが即興で奏でたマンドリンのリフから生まれ、歌詞はマイケル・スタイプが執筆している。歌詞のテーマは幻滅や報われない愛である。

本作はR.E.M.にとってアメリカで最も高いチャート順位を記録したヒット曲となり、ビルボード・ホット100で4位を獲得し、バンドの人気を大きく拡大させた。


レコーディング

  • 作曲過程
    ピーター・バックがテレビを見ながら練習していたマンドリンの録音テープから、この楽曲のメインリフが生まれた。
  • デモと最終録音
    1990年7月に「Sugar Cane」という仮タイトルでデモを制作。最終版は同年9月、ニューヨークのベアズヴィル・スタジオで録音された。
  • 楽器構成
    ミッドレンジを補うためにツアーギタリストのピーター・ホルサップルがアコースティックギターを加え、マーク・ビンガムによる弦楽編曲をアトランタ交響楽団のメンバーが演奏した。スタイプのボーカルは一発録りで収録された。

作曲と歌詞

  • 曲はEマイナーを基調とし、マンドリンリフをベースに構成されている。
  • タイトルの「Losing My Religion」は南部の俗語で「癇癪を起こす」「我慢の限界」といった意味を持つ。スタイプは「報われない恋愛表現」をテーマとしたと説明している。
  • 歌詞の「That’s me in the corner / That’s me in the spotlight」という一節は、もともと「That’s me in the kitchen」と書かれており、パーティーで好きな相手に近づけない内気な人物を描写していた。
  • スタイプはこの曲をポリスの「Every Breath You Take」と比較し、誰もが自分に置き換えて共感できる“クラシックな執着ソング”だと語っている。

ミュージックビデオ

  • 監督:タルセム・シン
  • 特徴
    • 宗教的イメージを多用し、カラヴァッジョ風の構図や聖セバスチャン、トマスの不信、ヒンドゥー教の神々などが登場する。
    • スタイプ自身が口パクで歌うのはR.E.M.のビデオとしては異例。
    • シーンの一部はアンドレイ・タルコフスキーの映画『サクリファイス』や、ガルシア=マルケスの短編「大きな翼を持ったとても年老いた男」に着想を得ている。
  • 評価
    1991年のMTVビデオ・ミュージック・アワードで9部門にノミネートされ、ビデオ・オブ・ジ・イヤーを含む6部門を受賞。

受賞と評価

  • グラミー賞(1992年)
    • 最優秀ポップ・パフォーマンス(デュオ/グループ)
    • 最優秀ショートフォーム・ミュージック・ビデオ
  • その他
    • 2017年、グラミー殿堂入り
    • 『ローリング・ストーン』誌の「歴代500曲」リスト2024年版で第112位
    • 2020年、R.E.M.のミュージックビデオとして初めてYouTube再生回数10億回を突破

歌詞の意味

この曲は、片思いの相手を前にして感情の制御が効かなくなり、心の限界を迎えそうになる様子を、南部の俗語である「癇癪を起こす=Losing My Religion」という比喩を通して描いている。

主人公は、好きな相手の前に立つと自信をなくし、言葉を選ぶたびに失敗してしまう。もともとはパーティーで相手に近づけず、台所の片隅でひとり固まっている内気な人物の姿として書かれたというエピソードが示す通り、この曲には“自分だけが浮いている”感覚が強く宿っている。「スポットライトの中の自分」という描写も、注目されているというより、自意識に押しつぶされそうな状態を表す比喩として響く。

相手の何気ない仕草や笑い声を、自分への好意と錯覚してしまう瞬間がある一方で、それがただの思い込みにすぎなかったと気づく落差が胸を刺す。期待と現実がぶつかり合うたびに、主人公は自分の気持ちを持て余し、沈黙と後悔を繰り返す。

全体として、片思いという名の“内なる暴走”と、それを抑えようとする葛藤を丁寧に掬い取った曲。夢と現実の境界がにじみ、自己嫌悪と期待が堂々巡りする心理の複雑さが、淡々とした語りとマンドリンの緊張感の中に深く刻まれている。

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