【曲解説】R.E.M. – Near Wild Heaven

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曲情報

「Near Wild Heaven」はアメリカのロックバンドR.E.M.の楽曲で、1991年8月に7枚目のスタジオアルバム『Out of Time』から3枚目のシングルとしてリリースされた。
この曲は、ベーシストのマイク・ミルズが作詞に参加し、さらに自身でリードボーカルを担当した初のシングルである点が特筆される。ピーター・バックのコメントによれば、歌詞はミルズとリードシンガーのマイケル・スタイプの共作であった。全英シングルチャートでは27位を記録したが、アメリカではシングルとしてリリースされなかった。

ミルズはこれ以前にも「(Don’t Go Back To)Rockville」の歌詞を手がけ、カバー曲「Superman」でリードボーカルを担当したことがあったが、自作の曲をシングルで歌うのはこの作品が初めてだった。


批評

  • NMEのバーバラ・エレン
    「この曲は依然として美しいものの、『Losing My Religion』の型破りなヴィジョンや『Shiny Happy People』の恍惚とした笑いには及ばない」と評している。
  • オーランド・センチネルのパリー・ゲッテルマン
    「『Near Wild Heaven』は、陰りを帯びた歌詞と陽気なメロディーとの対比をやりすぎている。そこにマイク・ミルズのリードボーカルを砂糖菓子のようなアレンジに折り込むのは、さくらんぼパイにさらに糖衣をかけるようなものだ」と批判的に述べている。

歌詞の意味

この曲は、手を伸ばせば届きそうなのに決して届かない“ほとんど天国”のような関係に揺れる心を描いている。抱き合っていてもどこか温度がずれ、満たされるはずの瞬間に空虚さが残り、かつてあったはずの感情が薄れていく。その違和感を抱えながら、それでも関係を繫ぎとめようとする必死さが胸に滲む。

相手の中へ入り込み、理解し、一体になろうと努力しても、思ったようには近づけず、賢くなるどころかむしろ心が固くなってしまう。愛することで“成長”できると思っていた期待が裏切られ、広げた心の扉が逆に傷つきやすさをさらけ出してしまうという切なさが響く。

それでも主人公は、崩れ落ちないように自分をまとめ上げようとしながら、その“ほとんど理想に近い場所”にしがみついている。手を合わせ、足を揃え、必死に自分を保ちながら、とどまり続ける理由を探している。そこは確かに良い場所だが、満たされるにはまだ遠く、不完全な幸福の中でもがいている。

全体として、幸福に触れかけながらも完全には手にできない関係の微妙な距離感と、諦めきれない愛の執着を柔らかなメロディに乗せて描いた曲。届きそうで届かない“天国の手前”で立ち尽くす心の揺れが、淡い光と影のように続いていく。

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