【曲解説】Scatman John – Scatman (ski-ba-bop-ba-dop-bop)

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曲情報

「Scatman(Ski-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop)」(スキャットマン)は、アメリカのミュージシャン、スキャットマン・ジョン(本名:ジョン・ポール・ラーキン)の楽曲。1994年11月にRCAレコードからデビューシングルとしてリリースされ、1995年7月にはセカンドアルバム『Scatman’s World』にも収録された。

この曲はスキャット(ジャズ的即興発声)、ラップ、ハウスビートを融合させたスタイルで知られ、少なくとも10か国の音楽チャートで1位を獲得した。イギリスではシングルチャート3位、アメリカではBillboard Hot 100で60位を記録。1996年3月にはドイツのエコー賞で最優秀ロック/ポップシングルを受賞している。ミュージックビデオはケルスティン・ミュラーが監督し、白黒映像で構成された。

背景とリリース

スキャットマン・ジョンはカリフォルニア州エルモンテ生まれ。幼少期から重度の吃音に苦しみ、12歳でピアノを学び始め、2年後にエラ・フィッツジェラルドやルイ・アームストロングのレコードを通じてスキャット唱法に出会った。

1970~80年代にはロサンゼルスのジャズクラブでプロのジャズピアニストとして活動。1986年には初のアルバム『John Larkin』を自主制作でリリースした。

1990年、音楽活動の幅を広げるためドイツ・ベルリンに移住。ジャズ文化が根付く現地で演奏活動を行い、次第にスキャットとダンス音楽を融合させるアイデアが生まれる。エージェントのマンフレッド・ゼーリンガーは、スキャットとヒップホップを組み合わせる構想を提案。最初は批判や嘲笑を恐れていたラーキンだったが、BMGハンブルクがこの案に関心を示した。

最終的にプロデューサーのトニー・カタニアとインゴ・ケイズとともに、「Scatman(Ski-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop)」をわずか2日で完成。カタニアは「ジャズの才能を持つ年配の男がダンスシーンに登場することが衝撃を与えると確信していた」と語っている。

一部の歌詞は、1986年のアルバム『John Larkin』収録曲「The Misfit」から流用されている。

批評

『Billboard』のラリー・フリックはこの曲を「陽気なユーロNRG調のノベルティダンスチューン」と評し、「耳に残る高速スキャットが特徴的」とした。

『Entertainment Weekly』のディミトリ・エーリッヒは「安っぽいドラムマシンが疾走する中、吃音を抱えるロサンゼルスのジャズボーカリストが、スキャットによって自分を解放する楽曲」と記した。

イギリスのチャート評論家ジェームズ・マスタートンは、「奇妙なラップ、スピーチ、スキャットが混在したダンスヒット」とし、「父と同じくらいの年齢のこの人物がチャート上位に来るのは衝撃的だが、ヒットであることに違いはない」とコメントした。

『Music & Media』誌は「このタイトルを噛まずに一息で言えるか?不可能!だがスキャットマンは難なく韻を刻む」と述べ、ノベルティヒットの有力候補と評した。

『Music Week』のRM Dance Updateでは、「ジョン・ラーキンの陽気なラガスキャットと『I’m a Scatman』のチャントが特徴」と記された。

『Smash Hits』のマーク・フリスは5点満点をつけて「今どき音楽は昔と違うと言う人々に対する答えがここにある。素晴らしい」と絶賛している。

チャート成績

この楽曲は世界中で商業的に大成功を収め、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、アイルランド、ノルウェー、スペイン、スイス、ユーロチャートHot100、カナダRPMダンス/アーバンチャートで1位を記録。

さらに、オーストラリア(8位)、ドイツ(2位)、イタリア(3位)、オランダ(2位)、スウェーデン(2位)、イギリス(3位)などでもトップ10入りした。

アイスランド(20位)、ポーランド、日本(36位)、ニュージーランド(39位)でもチャートイン。アメリカではBillboard Hot 100で60位、Hot Dance Club Playで10位、Cash Box Top 100で62位を記録。

このシングルは、オーストラリア(3.5万枚)、オーストリア(2.5万枚)、ノルウェー、スイス(2.5万枚)、イギリス(40万枚)でゴールド認定、フランス(50万枚)、ドイツ(50万枚)でプラチナ認定された。

ミュージックビデオ

「Scatman」のミュージックビデオは1994年にケルスティン・ミュラーの監督により制作され、Ariola Recordsによってプロデュースされた。

ビデオは白黒で、画面が分割され多数のボックスショットが交錯するキュビズム的なスタイルで構成。スキャットマン・ジョンの歌唱と、さまざまな人々のダンスや演奏、口パクが組み合わされている。

1995年には音楽チャンネルで大量に放送され、2013年には公式YouTubeチャンネルにアップロードされた。2025年初頭の時点で再生回数は2億4300万回を超えている。

レガシー

2013年、Vibe誌は「Scatman」を「EDM以前:90年代のダンスを変えた30曲」の第28位に選出。

2017年にはBuzzFeedが「90年代最高のダンス曲101」の第94位に選び、2024年にはMTV 90sが「ユーロダンスのリズム50選」で第7位にランク付けした。

歌詞の意味

この曲はナンセンス語の連打に見えて、実際は“吃音を抱えた人間がそれを力に変えて前へ進む”という自己宣言型のメッセージを中心に組まれている。スキャットの擬音は装飾ではなく、欠点とされる発話の特性をパフォーマンスへ転換した象徴として機能している。

反復される「誰でもどこかでつまずく」「もしスキャットマンにできるなら君にもできる」というフレーズは、弱点を理由に後退するのではなく、逆に推進力へ変えるという主題を明示する。言語が崩壊し、意味以前の音の奔流になる部分は、負荷から解放された身体性をそのまま鳴らしている。

政治的な欺瞞や偽りの権威に触れる一節は、外的な抑圧よりも、自己の内側にある“恐れ”こそが最大の壁だという視点へ収束する。意味ある言葉と無意味な音の往復は、他者から与えられた「こうあるべき」という枠を壊すための実践として扱われている。

最終的にこの曲は、“声のあり方そのものを武器に変える”という行為を、明るく誇張された音遊びの形で提示している。躊躇よりも音を出すことが重要で、音を出せば世界は開くという態度が、全編のリズムに貫かれている。