【曲解説】The Beatles – You Never Give Me Your Money

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曲情報

“You Never Give Me Your Money”(ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー)は、イギリスのロックバンド、ビートルズの楽曲で、1969年のアルバム『Abbey Road』に収録されている。ポール・マッカートニーが作詞・作曲し、レノン=マッカートニー名義でクレジットされている。バンドが直面していた個人的な問題をテーマにした楽曲であり、アルバムのB面メドレーの最初の曲として配置されている。1969年5月から8月にかけて段階的に録音された。

この曲は、マッカートニーとプロデューサーのジョージ・マーティンがビートルズのキャリアの締めくくりとして構想したメドレーの最初に録音された楽曲である。基本的なトラックはロンドンのオリンピック・サウンド・スタジオで録音され、その後のオーバーダブ作業はEMIスタジオで行われた。楽曲は、ピアノ・バラードから始まり、最後のギター・アルペジオまで、さまざまな音楽的要素が組み合わされた組曲のような構成を持つ。

背景

この楽曲は、1969年3月にマッカートニーが妻リンダとニューヨークで過ごしていた際に作曲された。この時期は『Get Back/Let It Be』のセッションが終わった直後であり、バンドのマネジメントを巡る問題が深刻化していた。レノンとマッカートニーは、彼らの楽曲の著作権を管理する会社「Northern Songs」の支配権を失う危機に直面していた。

マッカートニーは、1967年にマネージャーのブライアン・エプスタインが亡くなった後、バンドの方向性を主導していたが、次第にグループの結束が崩れつつあることを実感していた。特に、他のメンバーが財政問題の解決をアレン・クラインに委ねたことに不満を抱いており、この曲はクラインに対する不信感を表したものだとされている。マッカートニーは後に「この曲は、基本的に相手を信用できないという歌だ」と述べている。

歌詞の「One sweet dream, pack up the bags, get in the limousine(甘い夢、荷物をまとめてリムジンに乗る)」という部分は、リンダとの田舎へのドライブを反映しているが、ビートルズのツアー時代(1966年に終了)へのノスタルジーも込められているとする見解もある。

録音

この楽曲の基本トラックは、1969年5月6日にロンドンのオリンピック・サウンド・スタジオで録音された。このセッションは午後3時に始まり、翌朝4時まで続いた。マッカートニーがリードボーカルとピアノを担当し、レノンがエピフォン・カジノ・ギター、ハリスンがフェンダー・テレキャスター(レスリー・スピーカーを通して使用)、スターがドラムを演奏した。バンドは36テイクを録音し、テイク30が最良と判断されてステレオミックスが作成された。

当初、この曲は自由なジャム・セッションとして展開し、後半はロックンロール調のインストゥルメンタルへと発展していたが、最終的には異なる構成が採用された。

その後の録音作業はEMIスタジオで行われ、7月1日にマッカートニーがリードボーカルをオーバーダブした。7月15日にはさらにボーカルと効果音が追加され、7月30日にはメドレー用のラフミックスが作成された。「You Never Give Me Your Money」と次曲「Sun King」のクロスフェード処理には試行錯誤が必要であり、最終的にはオルガンの音を使用して楽曲同士をスムーズに接続した。

7月31日、マッカートニーはベースと追加のピアノオーバーダブを録音し、元々のピアノ演奏の一部をホンキートンク風のピアノで置き換えた。

最終的な録音作業は8月5日に行われ、マッカートニーはベルや鳥の鳴き声、泡の音、コオロギの音などのテープループを作成した。ジョージ・マーティンは8月13日にステレオミックスを行い、11回の試行を経てクロスフェード部分を完成させた。その後、8月21日に再度ミキシングが行われ、最終的なマスターが完成した。

楽曲の構造

楽曲は、ピアノ・バラードの静かな序盤から始まり、ブギウギ調のピアノ、アルペジオ・ギター、ナーサリー・ライム風の要素を組み合わせた構成となっている。音楽評論家のイアン・マクドナルドは、この曲のギターアルペジオが「I Want You(She’s So Heavy)」や「Here Comes the Sun」の中間部分の影響を受けている可能性を指摘している。また、アルバム『The Beatles』(通称ホワイト・アルバム)の「Happiness Is a Warm Gun」のように、無関係な楽曲断片を組み合わせる手法が用いられているとも分析している。

影響と遺産

「You Never Give Me Your Money」のメロディーやモチーフは、アルバム内の「Golden Slumbers」「Carry That Weight」にも再利用され、メドレー全体の統一感を生み出している。また、1970年の映画『Let It Be』では、ビートルズがリハーサル中にこの楽曲を演奏する様子が収録されている。

歌詞の意味

この曲は、現実の不安定さと、そこから一瞬でも抜け出したいという夢想が入り混じった構成になっている。前半では、お金や交渉事、人間関係がうまくいかず、互いに本音や必要なものを与えられないまま行き詰まってしまう様子が描かれる。続くパートでは、大学を出たのにお金も行き先もなく、職も失い、真っ黄色のトラックがゆっくり通り過ぎるだけの、どこにも行けない「空白の時間」にしばし浸る。しかしその停滞の中に妙な解放感や“魔法のような感触”もあり、何もないからこその自由が漂う。

後半では雰囲気が一転し、「ワンスウィートドリーム」とともに逃避と希望が差し込む。荷物を積んでリムジンに乗り、涙を拭ってどこか遠くへ向かう――そんな短い夢が“今日叶った”という高揚のまま終盤へ進む。そして最後には童歌のような反復フレーズが連なり、子どもじみた無垢さと無限に続くような余韻を残して曲が閉じる。全体として、混乱と停滞、そして夢の断片がコラージュのようにつながる、“旅立ちと逃避”の断章になっている。

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