【曲解説】Jennifer Lopez – If You Had My Love

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Jennifer Lopez(ジェニファー・ロペス)のデビューシングル「If You Had My Love(イフ・ユー・ハド・マイ・ラヴ)」は、彼女の1枚目のスタジオ・アルバム『On the 6』に収録されている。1999年にリリースされたこの楽曲は、ロペス、ラショーン・ダニエルズ、コリー・ルーニー、フレッド・ジャーキンス3世、そしてプロデューサーのロドニー・ジャーキンスによって作詞・作曲された。アルバムのリードシングルとして発表されたこの曲は、ミディアムテンポのポップとR&Bにラテン音楽やヒップホップの要素を取り入れた構成で、ロペスが新たな恋愛の始まりに際して相手に提示する「条件」を歌詞にしている。

「If You Had My Love」は批評家から好意的に受け止められ、グルーヴやプロダクションがロペスの声と調和している点が称賛された。リリースと同時に注目を集め、アメリカのビルボード・ホット100で5週連続1位を記録。1999年の最も売れたシングルのひとつとなり、アメリカ国内だけで120万枚以上を売り上げた。さらに、オーストラリア、カナダ、フィンランド、ギリシャ、ハンガリー、ニュージーランドなどでもチャートの首位を獲得し、国際的な成功を収めた。この成功は評論家の予想を超えるもので、ロペスは数少ない映画俳優から音楽界へ成功裡に転身した存在と見なされた。また、北米におけるラテン系アーティストの人気上昇にも貢献した。のちにこの曲は「R&Bクラシック」とも称され、ロペスの代表曲のひとつとされている。

ポール・ハンターが監督したミュージックビデオは、インターネット上でロペスの行動を視聴者が操作できるという覗き見的なコンセプトを採用しており、その挑発的な映像がMTVを中心とするネットワークで大量に放送された。これにより、ロペスはジャネット・ジャクソンやマドンナが支配していた映像表現の世界でも確固たる地位を築いた。このビデオはMTVビデオ・ミュージック・アワードで4部門、ビルボード・ミュージック・アワードで5部門にノミネートされた。ロペスは1999年のブロックバスター・エンターテインメント・アワードやVH1/Vogueファッション・アワードでこの曲を披露し、2001年の「Let’s Get Loud」コンサート、2012年の「Dance Again」ワールドツアーではアコースティック・バージョンを披露した。2016年のラスベガス常設公演『Jennifer Lopez: All I Have』ではオープニングナンバーとして歌われた。

背景

数々の映画で助演を務めた後、ロペスは1997年の伝記映画『Selena』で主演を務め、ブレイクを果たした。映画の撮影が音楽キャリアへの意欲を呼び起こし、ロペスは「舞台でのミュージカルが原点。映画に出演して歌やダンスが恋しくなった」と語っている。『Selena』の撮影後、ロペスは自らのラテンのルーツを意識し、スペイン語でデモ曲「Vivir Sin Ti」を制作した。マネージャーがこの曲をSony MusicのWork Groupに送ったところ興味を持たれ、レーベル代表のトミー・モトーラは英語で歌うことを提案。これにより、ロペスはデビューアルバム『On the 6』の制作を開始する。

当時、俳優が音楽活動に挑戦することはリスクと見なされており、「もし失敗すればロペスだけでなくキャリアにも傷がつく」と懸念されていた。当初、ロペスは「Feelin’ So Good」がリードシングルになると考えていたが、結果的にロドニー・ジャーキンスがプロデュースした「If You Had My Love」が選ばれた。ボーカルはニューヨークのソニー・ミュージック・スタジオで録音され、エンジニアはフランクリン・グラントとロブ・ウィリアムズ、ミキシングはトニー・マセラティ、マスタリングはハーブ・パワーズが担当した。バックボーカルはショニエット・ハレルとジェニファー・カーが務めた。

共同制作者のコリー・ルーニーによると、アルバム制作の終盤、ルーニーとジャーキンスがマイケル・ジャクソンに数曲を聴かせた際に、「If You Had My Love」も含まれていたという。ルーニーはこの曲がロペスにぴったりだと考えており、ジャクソンが気に入ってしまわないか心配していた。ジャクソンは曲を聴いて「いい曲だ。自分には合わないけど、誰かにはヒットになるだろう」と語り、ルーニーとラショーン・ダニエルズはその日のうちにこの曲を完成させた。

一方、ジャーナリストのダミアン・シールズは2015年に、ロペスは1998年にすでにこの曲を録音しており、マイケル・ジャクソンが聴いた時点でリリースが決定していたと報じた。ジャクソンも「素晴らしいグルーヴだ」と感じていたが、女性シンガー向きだと考えて録音を断念したという。

また、「If You Had My Love」をめぐっては、ロドニー・ジャーキンスが歌手シャンテ・ムーアのために制作した「If I Gave Love」とほぼ同一の楽曲だったことが判明し、論争が生じた。ムーアは「彼が私のために書いた曲をそのままロペスに提供した」と述べ、プロデューサーのショーン・コムズがスタジオでその曲を聴き「これが欲しい」と主張したことが原因だと語っている。結局、ムーアのバージョンはお蔵入りとなり、ロペスのバージョンが発表された。

曲の構成と歌詞

「If You Had My Love」は長さ4分25秒のミディアムテンポなポップ/R&Bソングで、サルサやヒップホップの要素も含まれている。主にロドニー・ジャーキンス、ラショーン・ダニエルズ、コリー・ルーニーが作詞・作曲を担当し、ロペスも一部の歌詞を手がけた。曲はロ短調で書かれ、テンポは94BPM。ピアノとギターが主体の編成で、ロペスのボーカルレンジはA♯3からE♯5。BBCのマイケル・クラッグはロペスの声を「甘くささやくよう」と評し、『Entertainment Weekly』のベス・ジョンソンはこの曲を「スローファンク」と表現している。

歌詞では、ロペスが相手に恋愛を始めるにあたっての「条件」を強く主張している。MTVのジェームズ・ディンは、この曲でロペスが「不安に振り回されている」と指摘し、『Billboard』のレスリー・リッチンは「これは将来ロペスと付き合いたいと思う人への警告メッセージのようだ」と書いている。冒頭の歌詞では、「私を受け入れてくれるなら、こうして欲しい/まず浮気は許さない/信じられない人を信じるなんてできない/バカにはされたくない」と歌われ、サビでは「もしあなたが私の愛を手にしたら/そして私がすべてを信じたら…/私に嘘をつく?/ベイビーなんて呼ぶ?」と問いかけている。

ロペスは自著『True Love』(2014年)の中で、歌詞は「新しい関係の始まりにおいて、自分が望むことや期待すること」を描いたものだとし、「そこには少しの恐れもある。心を預けたらどうなるんだろうという不安がある」と語っている。ヴァースでは「ルールを提示する姿」が描かれ、サビでは「内に秘めた不安」が表現されている。MTVニュースのジョスリン・ヴィーナは、この曲がロペスの恋愛探求をスタートさせた楽曲であり、そのテーマは以降のキャリアにも継続していると指摘している。

歌詞の意味

この曲は、自分が愛と信頼を差し出したとき、相手が誠実さを保てるのかを厳しく問いかける内容になっている。関係の成立条件は明確で、裏切りを許容しない姿勢が一貫して示される。相手が示す甘い言葉や将来の約束よりも、実際の行動と誠意を重視しており、自分を欺く可能性があれば関係は成り立たないという断固とした姿勢が語られている。

信頼は容易に与えられるものではなく、相手が真実を語り、痛みや不安を引き受ける覚悟を持つかどうかが基準となる。自分の人生を共有するかどうかの選択には慎重さが求められ、条件を満たさない場合は離れる決断も厭わない。全体として、愛を重んじつつも自己保護の意識が強調され、誠実さと相互尊重を関係の最重要要素とする姿勢が描かれている。

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