【曲解説】Elliott Smith – Miss Misery

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曲情報

「ミス・ミザリー」はアメリカのシンガーソングライター、エリオット・スミスの曲。1997年12月7日にプロモーショナルシングルとして発売されたが、アルバムには収録されなかった。日本ではスタジオ・アルバム『XO』に日本版のボーナストラックとして収録された。エリオット・スミスの死後、歌詞が異なる初期バージョンがアルバム『ニュー・ムーン』に収録された。

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映画のエンディング曲に採用され、最大のヒットとなった

1997年の映画『グッド・ウィル・ハンティング』のエンディングクレジットとサウンドトラックに採用され、 1998年のアカデミー賞で最優秀オリジナル主題歌賞にノミネートされた。

アカデミー賞での出来事

1998年3月23日、スミスは第70回アカデミー賞でオーケストラの伴奏と共にこの曲の短縮版を演奏した。アカデミー賞の最優秀オリジナルソング賞にノミネートされるという「衝撃的な」出来事を受け、スミスは当初この式典での演奏を辞退しようとしていたが、プロデューサーに説得され出演を決めた。マドンナが「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」が受賞したことを発表した際、彼女は皮肉を込めて「何という驚き!」と述べた。後に彼女はエリオット・スミスを非常に尊敬していると語った。式典後、スミスはその経験を「非現実的で馬鹿げていたが、ある時点で友達が喜ぶならと思って全力で取り組んだよ。ステージに出たらジャック・ニコルソンが約2メートル先に座っていたから、そのエリアを避けて、後ろのバルコニーを見上げて歌った」と述べた。

歌詞の意味

この曲は、喪失と自己破壊的傾向が入り混じる内的独白として構成されている。語り手はアルコールに頼って一日をやり過ごそうとし、破れたチケットや何も起こらない時間といった断片的モチーフによって、停滞した生活の空虚が浮かび上がる。呼びかけの対象は不在でありながら、記憶と未練が語り手の思考を占め、相手の言葉が真実かどうかを問い続ける姿が示される。

公園の男に手相を見せる場面では、他者の評価を受け入れられない語り手の皮肉が表れ、自己認識の歪みが滲む。雑誌で見た場所への旅行計画といった、かつて共有しようとした未来はすでに断たれており、その断絶を抱えながら前向きさを保とうとする負荷が静かに描かれる。

相手が自分の現状を見たくないだろうという察知は、語り手の自己嫌悪と関係の破綻を暗示する。テレビの青い光や、誤りの連鎖として描かれるコメディの引用は、現実の滑稽さと悲哀を重ね合わせ、崩壊へ傾く意識の背景となる。忘却へ消えていくことの容易さを認識しながら、それでも完全に消えることができず、相手の望む瞬間に戻ってしまうという帰属の循環が語り手を拘束している。

全体として、この曲は自己消失への誘惑と、断ち切れない依存の往復によって形成される内面の揺らぎを、繊細な語りで捉えた作品となっている。

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