動画
曲情報
「Boss Bitch」(ボス・ビッチ)は、アメリカのラッパー兼シンガーであるDoja Cat(ドージャ・キャット)の楽曲で、映画『Birds of Prey』のサウンドトラック『Birds of Prey: The Album』(2020年)に収録されている。2020年1月23日にサウンドトラックの3枚目のシングルとしてリリースされた。本楽曲はDoja CatがAshnikko(アシュニッコ)、プロデューサーのSky Adams(スカイ・アダムズ)、Imad Royal(イマド・ロイヤル)と共に制作した。
作曲
「Boss Bitch」は、シンセサウンドとカウベルの音を組み合わせた「ポップな雰囲気を持つアップテンポな楽曲」とされている。歌詞の内容は、「批判者たちへの鋭い反撃」と表現される。Doja Catは、楽曲の1番のヴァースをAshnikkoが作詞し、2番を自ら書いたことを明かしている。
評価
本楽曲は音楽批評家から高い評価を受けた。HypebeastのPatrick Johnsonは「クラブ向けのシングルであり、ダブシンセ、予想外のカウベル、そして否応なく耳に残るコーラスが特徴的」と述べ、Doja Catのパフォーマンスについて「映画『Birds of Prey』の主人公ハーレイ・クインの反抗的な自信と魅力を表現している」と評した。
iHeartRadioのJames Dinhは、Doja Catのカリスマ性を「初期のNicki Minajを彷彿とさせる」とし、「彼女がさらに注目される理由を提供する楽曲」と評価。また、PaperのBrendan Wetmoreは「Azealia Banksのベースの効いた楽曲に近い」とコメントした。
VultureのJazz Tangcayはサウンドトラック全体のレビューの中で、本楽曲を「堂々としたオープニング曲」とし、「Doja Catの強烈な決意がにじみ出ているフックが印象的」と評した。
2020年6月には、Billboardが「2020年のベストソング」の27位に選出し、12月にはNMEが「2020年のベストソング」の12位に選出した。
ミュージックビデオ
Doja Catは2019年12月にミュージックビデオの撮影現場の写真を公開した。ビデオは2020年1月23日に公開され、未公開の『Birds of Prey』の映像と共に、Doja Catが敵と戦うシーンや、ハーレイ・クインと共にダンスフロアで踊る様子が含まれている。Doja Catが登場するシーンの監督はJack Begert(ジャック・ベガート)が務めており、彼は「Juicy」や「Cyber Sex」のミュージックビデオも手がけている。
クレジットと制作
- レコーディング: Larrabee Sound Studios(ノースハリウッド、カリフォルニア)
- ボーカル・作詞: Doja Cat
- 作詞: Ashton Casey(Ashnikko)
- 作曲・プロデュース: Sky Adams, Imad Royal
- ミキシング: Manny Marroquin
- マスタリング: Emerson Mancini
歌詞の意味
この歌詞におけるbitch(ビッチ)の意味は?
この曲における “bitch” の意味は、女性に対しての侮辱的な意味ではなく、自己肯定、権力、独立性を表す表現 として使われている。ヒップホップでは「強い女性」「自信がある女性」としてポジティブな意味を持つことが多い。
この曲の “I’m a bitch” というフレーズは「私は強くて、周りに左右されない女性」という意味で使われている。
タツノオトシゴ??
直訳すると「私はスタリオン(種牡馬)で、あんたはシーホース(タツノオトシゴ)」となる。スタリオンはスラングで「背が高くて美しい女性」を意味し、種牡馬とかけてsea(海の)horse(馬)=seahorse(タツノオトシゴ)を対比として挙げている。日本語のことわざで言うところの「月とスッポン」のようなレベルの違いを言い表している。
wear the pants(パンツを履いている)??
“I wear the pants” の意味
- “Wear the pants” という表現は英語のイディオムで、「主導権を握る」「決定権を持つ」 という意味がある。
- 由来としては、昔の家庭では男性(夫)がズボンを履き、決定権を持っていたことから、「家の中でズボンを履く=権力を持つ」となった。
- 「夫がパンツを履いているのではなく、妻が履いている(妻が主導権を握っている)」と言うと、「女性が強い立場にある」 というニュアンスになる。
“I wear the hat” の意味
- “Wear the hat” という表現は、「リーダーシップを取る」「責任を負う」という意味を持つ。
- 例えば、「このスタートアップでは、私はいくつもの役割を担っている」という場合、“In this startup, I wear many hats.” という言い方ができる。
- 会社や組織では、立場や役割によって「帽子をかぶる」ことがあり、「責任を持つ人」という意味になる。
booとは?
「boo」はブーイングのことではなく、「ベイビー」「ダーリン」「恋人」 のような意味。「Said 」は「I said」の略。直訳すると「私は言ったわ、ベイビー、怒らないで、だってあなたにはチャンスがあったんだから」となる。
Dropとは?
この部分の “Drop” は、曲中でテンポが速くなったり、音を歪ませたりして変化が激しくなる部分である “beat drop” の開始を告げる掛け声として使われている。EDMなど、”drop” が構成に含まれている曲の “drop” 開始直前に “drop” を宣言することはよくあることで、「さあここからdropが始まるぞ」「ぶちかますぞ」というような意味になる。
全体的な意味
この曲は、周りにどう思われようと自分の価値を自分で決めるという強い自己肯定をテーマにしている。主人公は他人の期待に合わせることをやめ、自分のスタイル、自分のペース、自分の人生を堂々と生きると宣言している。歌詞のなかで繰り返される「bitch」は侮辱ではなく、「強い自分」「誇りを持って生きる自分」「誰にも支配されない自分」を意味するポジティブな表現として使われている。ヒップホップでよく見られる「自分は弱くない」というアティチュードの延長線上にある言葉で、自己主張とセルフラブの象徴だと言える。
冒頭では、ハイヒールでカッコつけるタイプになろうとするのではなく、不器用でも自然体でいる自分のほうを選ぶ姿勢が描かれる。周りがどうこう言おうと、自分は自分のやり方で楽しむし、欲しいものは堂々と手に入れるという意思が明確に示されている。「私はホールケーキにチェリーまで乗っかってる」という比喩は、自分には十分な価値があり、誰かの付属物ではないという強い自負を表している。
クラブでは、女性を軽く扱う男性を「クラブにバービー人形の“ケン”みたいな男が来て、バービーみたいな女の子をナンパしようとしている」と皮肉り、自分はそんな流れに加わらないと言い切る。言われるままに動くのではなく、自分の意思を優先し、自分の身体も人生も自分がコントロールするという姿勢が一貫している。力づけられるようなラインが続き、悪意を持って見てくる人たちに対しても「私が輝いて息をするだけで彼らは悔しがる」と余裕の態度で返している。
2番では、相手より上のステージにいる自分を比喩で表している。「私はスタリオン、あなたはシーホース」という対比は、魅力や実力のレベルがまったく違うという意味で使われている。さらに、自分がリーダーであり決定権を握る立場であることを「帽子をかぶり、パンツを履く」といったイディオムで示す。誰に頼るでもなく、努力して勝ち取ったものだからこそ自然に堂々と立てるという主張が込められている。
「チャンスはあったのに逃したのはそっち」というラインは、主人公が相手から求められる側の立場にあることを示している。つまり、この曲は恋愛ソングではなく、完全に自己主張と自己価値の提示のために歌われている。自分を選ばなかった相手を振り返らず、成功と自信をまとって先へ進むという強いメッセージが貫かれている。
プレコーラスの「Drop」は音楽的な演出として、曲の盛り上がりを引き起こす“ビートの落下”を示す掛け声で、ここからさらに勢いが増す合図になっている。サウンド面の高揚と歌詞の勢いが重なり、主人公の自信がピークへと達していく。
最終的に、この曲が伝えているのは「他人に決められる女ではない」「私は価値ある存在で、自分の人生のボスである」というメッセージだ。誰に否定されても、誰に見下されても、自分自身の価値は揺るがないという強さを、挑発的でユーモアのある言葉選びで表現している。自己肯定、女性の主体性、そして堂々と生きる姿勢を祝福するアンセムのような作品になっている。


