【曲解説】Mariah Carey – Butterfly

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曲情報

Butterfly(バタフライ)は、アメリカの歌手マライア・キャリーが1997年にリリースした6作目のスタジオ・アルバム『Butterfly』のために録音した楽曲である。コロムビア・レコードが1997年9月に同作からの2枚目のシングルとして発売した。キャリーが当時の夫であったレーベル幹部トミー・モトーラの視点から書いたもので、別居の最中に彼から言われたかったことをテーマにした内容となっている。楽曲の制作と音楽面の作曲はウォルター・アファナシエフと共同で行われ、キーボード、シンセサイザー、プログラムドラムを用いたサウンドが取り入れられている。ボーカルは抑制的なスタイルで、冒頭のささやき声から曲の終盤にかけて地声へと徐々に発展する構成となっている。ポップ、ゴスペル、R&Bのバラードで、当初はハウス曲「Fly Away」として構想された。キャリーはデヴィッド・モラレスとともに後者を共同制作し、アルバムおよびシングルのB面に収録した。

批評家は「Butterfly」をアルバムの中でも屈指の楽曲とみなし、キャリーの代表的なボーカルパフォーマンスのひとつと評価した。1998年のグラミー賞では最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞にノミネートされた。世界各地のチャートでは中程度の成功を収め、台湾ではトップ10入りし、クロアチアとスペインのラジオエアプレイチャートでもトップ10に入った。アメリカではHot 100 Airplayで16位を記録し、当時のキャリーにとって同チャートで最低順位となった。イギリスでは22位を記録し、1992年から続いていたトップ10シングル12作連続の記録が途切れた。

ミュージックビデオはキャリーがダニエル・パールと共同で監督し、家から脱出して馬と触れ合う姿が描かれている。キャリーは本曲を『The Oprah Winfrey Show』『Saturday Night Live』『Late Show with David Letterman』などのアメリカのテレビ番組で披露し、1998年のButterfly World Tourでも歌唱した。「Butterfly」はキャリーの楽曲を振り返る企画において上位に位置づけられている。ベストアルバム『Greatest Hits』(2001年)および『The Ballads』(2008年)にも収録された。

背景

キャリーは1996年6月に成功を収めたDaydream World Tourを終えた。アメリカへ戻ると、将来について考え始め、1995年のアルバム『Daydream』に続く新作の構想を練り始めた。当時、彼女の夫でありレーベルのトップでもあったトミー・モトーラとの結婚生活は、私的にも職業的にも多くの相違から常に困難を抱えていた。ある日、モトーラは自宅でキャリーに、エルトン・ジョンの1975年の曲「Someone Saved My Life Tonight」の一節「Butterflies are free to fly / Fly away」を書いたメモを残した。キャリーはその後モトーラと別居し、1996年12月に家を離れたが、その過程で「Don’t be afraid to fly / Spread your wings / Open up the door」という言葉とメロディが浮かび、これが「Fly Away」構想の基礎となった。当初はハウス曲として想定されたが、後に熟考を重ねるなかでバラード「Butterfly」へと変化した。その後、当初の構想どおり「Fly Away」も完成させ、「Butterfly Reprise」という副題をつけた。

キャリーは1997年1月に新作アルバムのレコーディングを開始し、完成後は「Butterfly」の重要性からアルバムを『Butterfly』と命名した。「Butterfly」はアルバムの2曲目、「Fly Away」は終盤の曲として収録され、「Whenever You Call」と「The Beautiful Ones」の間のインタールードとして機能している。1997年6月の時点で、「Butterfly」はアルバムからの第1弾シングルとしてリリースが予定されていたが、その後7月に「Honey」が先行シングルとして発売された。コロムビアはアルバム発売と同じ9月の週に「Butterfly」をアメリカのラジオ局へ送付し、アルバムの2枚目のシングルとして扱った。アダルト・コンテンポラリーやアーバン・コンテンポラリーなど、複数のフォーマットのラジオ局へ配信された。ビルボードの評論家は、アルバムの商業的成功を支えるうえで「Butterfly」の好調が重要だと指摘した。

コロムビアは「Honey」の売上が継続しているとして、アメリカで「Butterfly」の一般向け販売を行わなかった。一方、イギリスでは1997年11月24日にカセットと2種類のCDが発売された。日本では11月27日にミニCDシングルが発売された。「Fly Away」はB面に収録され、1998年の「My All」のマキシシングルおよび12インチ盤にも収録された。「Butterfly」はその後『Greatest Hits』(2001年)および『The Ballads』(2008年)に収録され、2020年8月28日にはキャリーのデビュー30周年企画「MC30」の一環としてデジタルEPが発売された。

構成

音楽

「Butterfly」はポップ、ポップ・ゴスペル、R&Bのバラードで、演奏時間は4分34秒。テンポは遅く、歌詞はキャリーが自身で書き、音楽は長年の共同制作者ウォルター・アファナシエフとともに作曲した。主なレコーディングはバハマのCompass Point Studiosで行われ、追加作業はニューヨークのCrave StudiosとThe Hit Factory、カリフォルニアのWallyWorldで行われた。エンジニアはDana Jon Chappelle、Mike Scott、David Gleesonが務め、Ian DalsemerとOliver “Wiz” Boneが補助した。アファナシエフはキーボード、シンセサイザー、プログラミングを担当し、Dan Sheaが追加のキーボード、プログラムドラム、電子サウンドデザインを手がけた。ピアノが顕著に使われている。ミックスはMick GuzauskiがCrave Studiosで行い、マスタリングはBob Ludwigがメイン州ポートランドのGateway Masteringで行った。その後、DJ Grego、DJ Memê、Amorphousが複数のリミックスを制作した。

批評家はこのプロダクションを凝ったものとみなし、R&Bの伝統要素である繊細なピアノ、ゆっくりと煮立つようなリズムアレンジ、ゴスペル的ハーモニーが含まれていると指摘した。キャリー自身は過去のアファナシエフとの作品とは異なると述べたものの、多くの批評家は既存の共作バラードに近いと評価した。評論家らは楽曲をキャリーの典型的なバラードの特徴を備えていると見なした一方で、より豊かで官能的で、キャリーが好んできたR&Bにしっかり根ざしたサウンドとする見解もあった。

歌詞

「Butterfly」の歌詞は2つのヴァース、ブリッジ、そして4回繰り返されるコーラスで構成されている。飛翔は自由のメタファーとして用いられ、蝶という繊細な美の象徴によって具体化されている。批評家は曲調を肯定的かつインスピレーションに満ちたものとみなし、この曲が人生の変化に順応する感情を整理する助けとなっていると述べた。新たな自立性がテーマとして捉えられ、「マライア・キャリー版の独立宣言」と評する声もあった。また、誰かを本当に愛しているなら解き放つべきだという格言を用いた作品だとする意見や、スティングの1985年の曲「If You Love Somebody Set Them Free」との類似性を指摘する見解もあった。

批評家は歌詞をキャリーとモトーラの別居・離婚に結びつけて解釈し、「Blindly I imagined I could / Keep you under glass」という一節が特に注目された。この行は、キャリーが自らを関係の抑圧者として描いているとする見方や、逆に彼女が抑圧されていたことを示していると解釈する見方もあり、さらにはストックホルム症候群的な共感を示唆しているとの分析もあった。一方で、この曲が必ずしも夫婦関係を直接的に描いたものではないとする意見も存在した。

キャリーは曲の意味についてたびたび語っており、アルバム発売時には「状況が正しくないと認識し、それを手放す力を自分の内に見つける強さ」を歌ったと述べた。2003年には「誰かに言ってほしいと思っていたことを、あたかも自分が誰かに語りかけるように書いた願望リストだった」と語り、2007年にはモトーラの視点から書き、離婚を決断する前に彼に言ってほしかったことを含めたと説明した。

ボーカル

批評家は「Butterfly」におけるキャリーのボーカルを抑制的だと述べた。彼女はキャリアで初めて高く柔らかなささやき声のスタイルを導入し、第2ヴァースではファルセット、ブリッジ以降では地声を使用している。ある批評家は楽曲が彼女の「スタイライズされたボーカル技巧」を示していると述べ、別の批評家は声の変化が脆さから安定へと向かう感覚を与えていると分析した。キャリーはこの歌唱スタイルについて、バハマでの録音環境による自由な感覚が影響を与えたと説明している。

「Butterfly」にはキャリーに加えてMelonie DanielsとMary Ann Tatumがバッキングボーカルとして参加し、コーラスの「Spread your wings and prepare to fly / For you have become a butterfly」を力強く歌っている。ある評論家はこのバッキングを「煙突の上に漂う煙のようだ」と表現した。

歌詞の意味

この曲は深く愛した相手を本当の意味で自由にすることで、その人が持つ本来の輝きを信じて見送る心の痛みと成長を描いた作品になっている。大切にしすぎて守ろうとしたがゆえに、逆に相手の翼を閉じ込めてしまっていたことに気づき、愛しているからこそ手放さなければならないという葛藤が静かに流れていく。

相手が光の中で伸びていく存在であると理解し、その美しさは自由の中でこそ咲くものだと知ることで、自分自身も強さを得ていく。離れることで痛みは溢れてくるが、それでも相手が高く羽ばたき、いつか本当に帰ってくる時が来るなら、それは運命だと信じようとする優しさが込められている。

別れを受け入れる強さと、相手の幸せを心から願う純粋な愛が重なり、涙を抱えながらも翼を広げて飛び立つ姿を見送る決意が胸に残る。愛とは縛ることではなく、自由を与えることだと静かに語りかける曲になっている。

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