【曲解説】Sarah McLachlan – Angel

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曲情報

「Angel」(エンジェル)は、カナダのシンガーソングライター、Sarah McLachlan(サラ・マクラクラン)の楽曲で、1997年の4作目のスタジオ・アルバム『Surfacing(サーフェシング)』に初収録され、1998年9月に同アルバムから4枚目かつ最後のシングルとして発売された。歌詞は、ミュージシャンのジョナサン・メルヴォイン(1961年–1996年)がヘロインの過剰摂取で死亡した件を題材としたものである。曲はしばしば「In the Arms of an Angel」あるいは「Arms of the Angel」と誤って表記されることがある。

「Angel」は米国Billboard Hot 100で最高4位を記録し、マクラクランにとって2作連続のトップ5ヒットとなった。またBillboard Adult Contemporaryチャートでは12週連続1位を記録し、1999年の年間1位曲となった。マクラクランの母国カナダではRPM 100 Hit Tracksで7位、Adult Contemporaryチャートで3位を記録している。北米以外でも、発売から数年後に各国でチャート入りし、2002年にはアイルランドで7位、2008年にはノルウェーで9位を記録した。

曲の題材は悲劇的なものであるが、「You’re in the arms of the angel. May you find some comfort here(天使の腕の中にいる。ここで少しでも安らぎが見つかりますように)」という歌詞から、葬儀や追悼式で演奏されることも多い。

背景

「Angel」は『Surfacing』の中でも初期に書かれた楽曲のひとつである。マクラクランは本作について「書くのはとても簡単で、本当に喜びに満ちた時間だった」「ほとんど3時間ほどでできた」と述べている。きっかけは、音楽業界の重圧から逃れるためにミュージシャンがヘロインに手を出し、過剰摂取で亡くなるという記事を『Rolling Stone』誌で読んだことだった。特に1996年に過剰摂取で亡くなったSmashing Pumpkinsのキーボーディスト、ジョナサン・メルヴォインが強い影響を与えた。マクラクランは「自分を見失い、惨めで、逃げ場がほしいと感じる状態がどういうものか理解できた」と述べており、「この曲は、他人の問題を背負い込まないようにしながら同時に自分自身を愛そうとすることについての歌」だとしている。

構成

楽曲は非常にミニマルな編成で、使用されているのはピアノ(マクラクラン)、ドラムマシン(ピエール・マーシャン)、アップライトベース(Barenaked Ladiesのジム・クリーガン)の3つのみである。キーはD♭メジャーで録音されている。ライブでは元々の作曲キーであるDメジャーに半音上げて演奏され、ベースパートは省略される。

チャート成績

1998年9月28日にシングルとして発売された「Angel」は、1999年2月22日にBillboard Hot 100で最高4位を記録し、トップ10内に19週とどまった。BillboardのHot Adult Contemporary Tracks、Adult Top 40、Top 40 Tracksの各チャートで1位を獲得し、特にHot Adult Contemporary Tracksでは12週連続1位を維持し、同チャートの年間1位曲となった。

カナダではRPM 100 Hit Tracksで7位、Adult Contemporaryチャートで3位を記録し、年間チャートでは48位となった。

リリースから年月を経た後も世界各国で再びチャート入りしており、2002年にはRollo ArmstrongとMark Bates(Dusted名義)によるリミックスがアイルランドで7位、イギリスで36位を記録した。2008年にはノルウェーで9位、2009年にはニュージーランドで36位を記録している。オーストリアとスイスでも複数回チャート入りし、いずれも最高17位を記録した。2012年にはドイツで57位、同年フランスで77位を記録し、オランダでは1997年の初登場時の99位から、2014年に31位まで上昇した。

歌詞の意味

この歌詞は、絶望や孤独、自己嫌悪の中で現実から逃れたいという気持ちを抱える人を描いている。主人公は日々の重圧や失敗に疲れ切っていて、自分を保つための“逃げ道”としてヘロインのような強い依存対象に引き寄せられてしまう。その状態を「天使の腕の中」という比喩で表現していて、そこは苦しみから一瞬だけ解放される“安らぎ”の象徴のように扱われている。

歌詞に出てくる「暗く冷たいホテルの部屋」や「ハゲタカのような存在」は、音楽業界での孤独や搾取を感じる状況そのものを示している。現実は苦しいが、逃げる衝動の方が楽だと錯覚してしまうほど追い詰められている。一方で、幻想的な安らぎを求める気持ちと、そこに救いがないことを薄々わかっている感覚が同時に存在している。

全体を通して、この曲は“本当の救いではない逃げ場”にすがりたくなるほどの弱さや孤独を優しく描いていて、悲しみと美しさが同居するような感情が流れている。

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