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The Police Collection
The Police
曲情報
「Spirits in the Material World」(スピリッツ・イン・ザ・マテリアル・ワールド)は、イギリスのロック・トリオ、ポリスの楽曲で、スティングが作曲した。1981年のアルバム『Ghost in the Machine』の冒頭曲として収録され、同年シングルとしてもリリースされ、1982年初頭に全英シングルチャートで12位、全米Billboard Hot 100で11位を記録した。
背景
この曲はスティングがトラックの荷台でカシオトーン・キーボードを使って作曲したもので、彼にとって初めてのシンセサイザー体験だった。スティングは「トラックの後ろでカシオを叩いていたら、偶然できてしまったんだ。アルバムで初めてシンセに触れた」と述べている。
スタジオ録音において、アンディ・サマーズの存在感は他のポリスの楽曲と比べてかなり薄い。スティングは当初ギターを排してシンセサイザーのみで録音したいと考えており、自らシンセパートを演奏するつもりだった。サマーズはこれをギターに置き換えるべきだと主張したが、議論の末、両方を録音し最終的にミックスでシンセがサマーズのギターをほとんどかき消す形となった。
ライヴではシンセ部分は背景コードに回され、リードパートはギターのみで演奏された。ベースラインは特に複雑で、音楽プロデューサーで認知心理学者のダニエル・レヴィティンは「リズムの遊びが極端で、ダウンビートがどこにあるのかさえわかりにくい」と述べている。2023年にはスチュワート・コープランドが「これはドラマーとして一番の天敵。1拍目がなく全部が裏拍だから」と語っている。録音はモントセラトのエア・スタジオで行われた。
歌詞は人間の存在の本質や地上的な制度の失敗について言及している。
リリースと評価
「Spirits in the Material World」は「Every Little Thing She Does Is Magic」に続くシングルとして1981年にリリースされ、イギリスでは『Ghost in the Machine』からの3枚目のシングル、アメリカでは2枚目のシングルとなった。『Billboard』はこの曲を「前作よりメインストリーム的ではないが、より魅力的」と評し、「繰り返しのリズムが催眠的効果を生み出している」と述べた。『Record World』も同様に「レゲエをさらにポップに進めた作品」と評価し、「催眠的な一曲」とした。シングルは前作ほどの成功ではなかったが、全英12位、全米11位を記録した。その後アメリカでは「Secret Journey」が後続シングルとしてリリースされた。
B面曲
UK盤のB面「Low Life」はスティングが1977年頃にドイツのツアーバスの中で書いた曲である。コープランドは「ずっと好きな曲だ」と述べた一方で、サマーズは「自分もスチュワートも気に入っていなかった。歌詞がスノッブっぽく、安っぽいジャズ感があると思った」と語っている。アメリカ盤のB面は「Flexible Strategies」というインストゥルメンタルで、カナダで『Ghost in the Machine』制作中に、レコード会社からB面曲の要請を受けて10分間のジャムで作られた。コープランドはこれを「恥ずべき録音だ」と評している。
歌詞の意味
この曲は、物質社会に縛られた現実の中で、人間の本質がどこにあるのかを問いかけるように進んでいく。政治や制度が抱える限界を見据えながら、人を救う答えはそこにはないという厳しい視点が示されている。体制や権力の言葉は人を押さえつけるだけで、本当の変化を生み出す力にはならないという失望が根底にある。
それでも歌が語るのは、外側の仕組みではなく、内側にある見えない精神的な存在こそが人間の核だという感覚。物質的な世界で暮らしていても、心はそれに還元されないという強い主張が繰り返し響く。日々の生活に追われながらも、金や制度で買えないものにこそ答えがあるという気づきが、静かで反抗的な希望として残る。
全体を通して、社会の矛盾を見つめながらも、人間の精神が持つ自由さと可能性を信じようとする姿勢が込められた曲になっている。


