【曲解説】Aerosmith – Janie’s Got A Gun

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曲情報

「Janie’s Got a Gun」(ジェイニーズ・ガット・ア・ガン)は、アメリカのロックバンド、エアロスミスの楽曲で、スティーヴン・タイラーとトム・ハミルトンによって作詞・作曲された。1989年にアルバム『Pump』からのセカンドシングルとしてリリースされ、ビルボード・ホット100で4位、ビルボード・アルバム・ロック・トラックス・チャートでは2位を記録した。オーストラリアでは1位を獲得し、カナダでは2位、スウェーデンでは12位、ニュージーランドでは13位にランクインした。

この楽曲は、性的虐待を受けた少女が加害者である父親を射殺するというストーリーを描いている。1990年のグラミー賞では「最優秀ロック・パフォーマンス(デュオまたはグループ)」を受賞した。

楽曲構成

アルバム収録バージョンでは、楽曲の冒頭に「Water Song」という10秒間のインストゥルメンタルが挿入されている。このパートでは、グラス・ハーモニカ、ウィンド・ゴング、ブルロアーといった楽器が使用され、特異なサウンドエフェクトが作り出されている。

背景と制作

タイラーはキーボードで低音設定を使用してメインリフを考案し、ハミルトンがベースラインを作曲した。その後、ギターとドラムが追加され、タイラーが歌詞を執筆した。ギターソロはジョー・ペリーが担当し、リズミカルな手拍子とともに楽曲を彩っている。

1994年の『ローリング・ストーン』誌のインタビューで、タイラーは楽曲の着想について次のように語っている。

「俺は地下室でただふざけて曲を書いていたんだ。『ジェイニーズ・ガット・ア・ガン』と口ずさんだ瞬間、鳥肌が立った。それから何ヶ月もかけてインスピレーションが湧くのを待った。そしてある日、『タイム』誌の記事でアメリカでの銃による死者の統計を目にした。その後、子供への虐待について話している女性のスピーチを聞いたんだ。それが本当に恐ろしかった。俺は、誰かがこの問題について歌わなければならないと感じた」。

タイラーは歌詞の完成に9か月を費やした。歌詞のインスピレーションの一つとして、彼自身が薬物リハビリ施設で聞いた話が挙げられる。彼は、ある女性が父親からの虐待によって薬物依存に陥ったことを知り、この楽曲のテーマに取り入れた。

当初の歌詞には「He raped a little bitty baby(幼い少女を強姦した)」という表現があったが、レコード会社のエグゼクティブであるジョン・カロドナーが、この表現ではラジオで放送できないと主張し、「He jacked a little bitty baby(幼い少女を弄んだ)」に変更された。また、「…and put a bullet in his brain(彼の頭に弾丸を撃ち込んだ)」というラインも、ラジオ版では「…she left him in the pouring rain(彼女は彼を土砂降りの中に残した)」に変更され、暴力的な表現が抑えられた。

Jack” には「奪う」「盗む」という意味があるが、ここでは性的虐待の婉曲表現として使われている。

ミュージックビデオ

ミュージックビデオはデヴィッド・フィンチャーが監督を務め、主人公ジェイニーをクリスティン・ダティロが演じた。彼女の両親役にはニコラス・ゲストとレスリー・アン・ウォーレンがキャスティングされた。

ジェイニーズ・ファンド

2015年、スティーヴン・タイラーは「Janie’s Fund(ジェイニーズ・ファンド)」という慈善活動を立ち上げ、虐待を受けた少女たちのカウンセリング、トラウマ治療、住居支援、医療支援を行っている。タイラーはこの活動について「この曲がリリースされてから30年間、どうすればこのような虐待を防げるかを考え続けてきた」と語っている。

影響と評価

「Janie’s Got a Gun」は、エアロスミスのキャリアにおいて最も社会的メッセージの強い楽曲の一つであり、楽曲のストーリー性とタイラーのエモーショナルなボーカルが高く評価された。この楽曲は、バンドの代表曲の一つとして、今もなお多くのリスナーに親しまれている。

歌詞の意味

この曲は、虐待という逃れようのない悪夢の末、少女が自ら武器を取るまで追い詰められた物語を中心に据えている。冒頭の「dum, dum」という擬音は銃声と緊張を同時に示し、彼女の行動が単なる衝動ではなく、長く続いた苦痛の果てであることを暗示する。

繰り返される問い「父親は何をした?」は、周囲の無関心や不信を象徴し、少女が誰にも信じてもらえず孤立していた状況を浮かび上がらせる。彼女が復讐に至った理由は明確で、加害者が社会的にも家庭的にも守られたまま放置されてきた構造的な理不尽が背景にある。

銃を手にした瞬間、彼女は虐げられた被害者から、逃げ場を自ら切り開く存在へと変化するが、その解放は同時に「決して元に戻れない」という痛ましさと共に描かれる。「走り去れ」というフレーズは、彼女自身が痛みから逃げたいという願いと、周囲が恐怖に駆られて逃げ惑う姿の二重性を含んでいる。

全体として、この曲は家庭内暴力と沈黙の連鎖を告発し、少女が選ばざるを得なかった悲劇的な“最終手段”をスローモーションのように描き出すことで救いの無さとやるせなさを強烈に提示している。

I.O.U とは?

“I.O.U” は「借用証書」の略で、比喩的に「借りを返す」ことを意味している。

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