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曲情報
「Wannabe」(ワナビー)は、イギリスのガール・グループ、Spice Girls(スパイス・ガールズ)のデビューシングルで、1996年6月26日に発売された。作詞・作曲はスパイス・ガールズ、マット・ロウ、リチャード“ビフ”スタナードによるもので、プロデュースもロウとスタナードが担当した。グループのデビューアルバム『Spice(スパイス)』に収録されている。当初はデイヴ・ウェイによってミックスされたが、仕上がりに満足できなかったため、最終的にマーク“スパイク”ステントが再ミックスを行った。ダンスポップの楽曲で、歌詞は恋愛よりも女性同士の友情の価値を強調している。この曲はやがて女性のエンパワーメントを象徴する楽曲となり、グループの掲げた「ガール・パワー」理念を最も体現する代表曲となった。
「Wannabe」は大々的にプロモーションされた。ヨハン・カミッツが監督したミュージックビデオは、英国のケーブル局The Boxで人気を博し、グループへの注目を高めた。その後、イギリス全土でラジオ放送が盛んに行われ、スパイス・ガールズはテレビ出演やティーン向け雑誌でのインタビュー、写真撮影を行った。反響を受け、Virgin Recordsは同曲を日本で1996年6月、イギリスでは翌7月にデビューシングルとして発売し、アルバム『Spice』のリリースよりも早く公開された。アメリカでは1997年1月にラジオ向けに配信された。
この曲は評論家から賛否両論の評価を受けたが、1997年のアイヴァー・ノヴェロ賞で最優秀英国作詞作曲シングル賞、ブリット・アワードで英国年間最優秀シングル賞を受賞した。イギリスでは7週連続でシングルチャート1位を記録し、BPI(英国レコード産業協会)からクアドラプル・プラチナ認定を受けた。1996年末までに22か国(アメリカのBillboard Hot 100を含む)で1位を獲得し、翌1997年末には37か国で首位を記録した。ガール・グループとして史上最も売れたシングルとなり、2014年の調査では、過去60年間で英語話者の若年層に最も認知されているポップソングに選ばれた。2021年には発売25周年を記念してEP『Wannabe 25』がリリースされた。
背景
1994年3月、ボブ・ハーバートとクリス・ハーバート父子、および出資者チック・マーフィーは、Heart Management名義で『The Stage』誌に「ストリートスマートで外向的、野心的で、歌とダンスができる女性を募集」との広告を掲載した。多数の応募から最終的にヴィクトリア・アダムス、メラニー・ブラウン、メラニー・チズム、ジェリ・ハリウェル、ミシェル・スティーブンソンの5人が選ばれ、「Touch」と名付けられたグループが結成された。その後、やる気が不足していたとしてスティーブンソンが脱退し、エマ・バントンが加入した。1994年11月、グループは「Spice」と改名し、ロンドンのシェパーズ・ブッシュにあるNomis Studiosで業界関係者に向けたショーケースを行った。プロデューサーのリチャード・スタナードは偶然その場に居合わせ、グループのエネルギーと個性に感銘を受け、ソングライティング・パートナーのマット・ロウに「理想のポップグループを見つけた」と伝えた。1995年1月、ハート・マネージメントはロウとスタナードとの初の作曲セッションを手配し、これが後に「Wannabe」制作のきっかけとなった。
作曲
スパイス・ガールズとロウ、スタナードの最初の共同作業曲は「Feed Your Love」であったが、性的な内容が強すぎるとしてアルバムには採用されなかった。その後、彼女たちはアップテンポのダンスポップ曲を書きたいと提案し、ロウがドラムループを作成してセッションを開始した。グループは自由にラップや掛け声を加え、それらを切り貼りする形で曲を構成していった。「Wannabe」はおよそ30分で完成し、終盤のラップ部分と「zigazig-ah(ジガジガー)」という言葉は、メラニー・ブラウンとエマ・バントンの発案によるものだった。
録音と制作
「Wannabe」のレコーディングは1時間以内で完了した。ソロパートはブラウン、バントン、チズム、ハリウェルが担当し、アダムスは電話越しで意見を伝えた後にコーラスとバックボーカルを加えた。完成後、Virgin Recordsはアメリカのプロデューサー、デイヴ・ウェイにリミックスを依頼したが、結果に満足できず、最終的にマーク“スパイク”ステントが6時間で再ミックスを行った。
構成
「Wannabe」はヒップホップやラップの要素を含むダンスポップで、Bメジャーの調で構成され、テンポは毎分110拍。軽快なシンセサイザーのリフとリズミカルな掛け合いが特徴で、「恋愛より友情」をテーマにした歌詞が展開される。「If you wanna be my lover, you gotta get with my friends(私と付き合いたいなら、私の友達を大切にして)」というフレーズは、女性の友情と連帯を象徴しており、ガール・パワーの核心を表している。
リリースとプロモーション
Virgin Recordsはスパイス・ガールズを大型新人として売り出すため、入念なプロモーションを展開した。当初、デビュー曲を「Say You’ll Be There」か「Love Thing」にする案もあったが、メラニー・ブラウンとジェリ・ハリウェルの強い主張により「Wannabe」が選ばれた。1996年5月に公開されたミュージックビデオはThe Boxで人気を集め、イギリスの主要ラジオ局で大量にオンエアされた。グループは子供向け番組『Live & Kicking』などに出演し、雑誌『Smash Hits』では「Girl Power is comin’ at you」という全面広告が掲載された。日本では1996年6月26日に初リリースされ、イギリスでは同年7月8日に発売された。発売後、グループは日本、ドイツ、オランダ、香港、タイ、韓国などを回るプロモーションツアーを行い、1997年1月には北米で大規模なキャンペーンを展開した。アメリカではMTVでの高頻度放送が成功を後押しし、「Wannabe」は世界的なヒットソングとなった。
歌詞の意味
この曲は「恋人になりたいなら、まず友情や信頼を大切にしなければいけない」というテーマを、明るくポップで勢いのある言葉に乗せて伝えている。歌い手の女性は、相手の男性に対して単純に恋愛だけを求めるのではなく、自分の友達を尊重し、自分自身の価値観やペースにも向き合ってほしいと考えている。未来を求めるなら過去にこだわらないこと、一緒にいる時間を大切にし、誠実であることが必要だという姿勢が、曲全体を通して一貫している。軽快な掛け声や勢いのある言い回しの裏には、恋愛におけるパートナー選びの条件をはっきり示す強さがある。
恋人になりたいなら「まず友達と仲良くすること」や「自分の大事にしているコミュニティを受け入れること」が求められているのは、この曲の象徴的な部分。ここでの“友達”は単に第三者ではなく、彼女の人生において欠かせない存在であり、恋愛より前から続く信頼関係の象徴でもある。相手はその友人関係を尊重し、輪に溶け込み、楽しくやっていけるかどうかが試される。つまり、恋人になるための条件は外見や勢いではなく、誠実さ・協調性・真剣さといった内側の資質だと示している。
また、相手に対しては「時間を無駄にしないで」「ちゃんと準備して、きちんと向き合ってほしい」という気持ちも強い。曖昧な態度のまま近づかれるのではなく、誠意をもって向き合うことが求められている。気が合わなければ自分のほうから見切りをつける覚悟もあるという、自立したスタンスも読み取れる。
曲後半のラップパートでは、メンバーそれぞれの個性が紹介され、彼女たちの友情の強さと、そこに踏み込むには理解が必要だというメッセージが込められている。彼女と付き合いたいなら、その背景にいる仲間たちも含めて理解し、尊重しなければいけないと示している。友情は一時的な恋愛よりも長く続くものであり、それを大事にできる人こそが恋人としてふさわしいという価値観がはっきりと表現されている。
全体として、明るくキャッチーなサビの裏に、恋愛における大切な条件、人としての誠実さ、そして友情の価値が力強く込められている曲だと言える。


