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曲情報
U2の”Vertigo”(ヴァーティゴ)は、アイルランドのロックバンドU2の楽曲であり、2004年の11枚目のスタジオ・アルバム『How to Dismantle an Atomic Bomb』の冒頭を飾る曲である。2004年11月8日にアルバムのリードシングルとしてラジオで解禁され、大きな反響を呼んだ。発売初週だけで3万枚以上を売り上げ、AppleのiPodテレビコマーシャルで使用されたことも相まって国際的な成功を収めた。曲は2005年から2006年に行われたバンドのヴァーティゴ・ツアーの名称にもなっている。
アメリカではビルボードHot 100で31位、オルタナティブ・ソングス・チャートで1位を記録したほか、デンマーク、ギリシャ、アイルランド、イタリア、スペイン、イギリスのシングルチャートで1位となり、オーストラリア、オーストリア、ベルギー(ワロン地域)、カナダ、フィンランド、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイスのチャートでもトップ10入りを果たした。第47回グラミー賞では最優秀ロック・パフォーマンス(デュオまたはグループ)、最優秀ロック・ソング、最優秀ショートフォーム・ミュージックビデオの3部門を受賞している。
また、「Vertigo」はローリング・ストーン誌が選ぶ2000年代ベストソング100で64位にランクインした。
作詞・レコーディング
「Vertigo」は、ギタリストのエッジがマリブの自宅で簡易的なPro Toolsのセットを使って作ったデモをもとに生まれた。ドラマーのラリー・マレンJr.が録音したドラムループを流しながら「21世紀におけるロックンロールのギターとは何か」を探求している最中、いくつかのギターリフが生み出された。そのうちのひとつは、エッジが1957年製Fender Deluxeアンプを初めて使ってから20分ほどで完成したという。当初このデモには「Full Metal Jacket」という仮タイトルが付けられていた。
リード・シンガーのボノはこのリフを聴き、「ロックンロールのすべてが詰まったような曲」と高く評価し、「こんな曲があるならアルバムを作る価値がある」と強く感じたという。バンドはパンクロック的なエネルギーとメンバー同士の共同作業を期待し、クリス・トーマスをプロデューサーに起用してレコーディングを進めた。実際に長い時間をかけて曲のメロディやリズムのアイデアを模索していた当初は、「Native Son」というタイトルで完成されたバージョンまで作ったものの、最終的には納得がいかずに再構築が行われた。
2004年1月、スティーヴ・リリーホワイトがプロデューサーとして加わり、メンバーはスタジオ内の広いスペースで再録音を行った。ガイドボーカルの段階でボノは歌詞に違和感を覚え、フレーズの大部分が書き換えられることになった。いくつかの仮称を経て最終的に「Vertigo」というタイトルに落ち着き、サビの「Hello, hello」の部分は他者の意見も参考に採用されたという。エッジによれば、デモでのアイデアはほぼ最終形にも引き継がれており、ギター・トーンは1966年製Fender Telecaster、Line 6 DM4 Distortion Modeler、Korg SDD-3000デジタルディレイ、そしてFender Deluxeアンプという4つの機材によって生み出されている。
構成
曲の冒頭でボノがスペイン語で「Unos, dos, tres, catorce!」とカウントしている点が特徴的で、文字通り訳すと「1、2、3、14」となり、一見すると不思議な数え方になっている。これについてボノは、「お酒の影響があったかもしれない」と語った。サビでは「Hello, hello」というフレーズが印象的に繰り返されるが、背景でスペイン語の「¡Hola!」がかぶさる形で歌われたり、「¿Dónde está?」という言葉が歌詞に混ざっていたりする。ライブでは曲中に「Stories for Boys」(アルバム『Boy』収録)の一節を組み合わせることもある。
プロモーション
「Vertigo」はAppleのiPodコマーシャルに起用され、バンドもCM内でパフォーマンスを披露した。これはアルバムのプロモーションと、iPodやiTunesなどAppleの音楽関連製品の販促を兼ねた連携キャンペーンの一部である。
ライブ・パフォーマンス
「Vertigo」は2004年から2005年にかけていくつかのプロモーション出演で演奏されたあと、ヴァーティゴ・ツアー初日の公演で正式にツアー演奏が始まった。以降、2017年の『The Joshua Tree Tour 2017』序盤の数公演を除いて、ほぼすべてのフルコンサートで演奏されている。北米アリーナ公演や2006年のスタジアム公演では、通常2曲目に「City of Blinding Lights」の後に披露された。ヨーロッパのスタジアム公演などではオープニング曲としても使われ、時には2回演奏されることもあった。
U2 360°ツアーでは主にセット中盤、やはり「City of Blinding Lights」の後に演奏されることが多かった。Innocence & Experienceツアーでは3曲目に配置され、ステージ上で電球が揺れる演出が印象的だった。『The Joshua Tree Tour 2017』や2019年の公演ではアンコール曲として再び演奏され、エクステンデッドアウトロやヴァーティゴ・ツアー時のビジュアル演出が復活している。Experience + Innocenceツアーでは「Elevation」の後に続けて演奏され、ボノが「MacPhisto」というキャラクターで歌うスタイルが取り入れられた。
メディアでの使用
Redanka Powerによるリミックス版は、2006年にNine Networkの金曜ナイトAFL放送のBGMとして使用された。
チャート成績
「Vertigo」はリリースと同時にビルボードのモダン・ロック・トラックスで18位、Hot 100で46位に初登場し、短期間でそれぞれ1位やトップ10へと急上昇した。ディジタル配信の売上がビルボードHot 100の集計に反映されない時代であったため、もし反映されていればさらに上位に食い込んだだろうと推測されている。
イギリスでは、発売後すぐにチャート1位を獲得し、そのまま1週間トップを維持した。オーストラリアでは初登場5位を記録し、Triple Jの年間投票企画「Hottest 100 of 2004」では38位となった。オランダのMega Top 100では2位を獲得している。ブラジルでは5万件以上のダウンロードを達成し、ゴールドディスクに認定された。
ミュージックビデオ
ミュージックビデオでは、U2が何もない砂漠のような場所で演奏しており、各メンバーの背後から黒いジェットストリームのようなものが噴出している。地面にはアルバムのアートワークにも使われている大きな白い的(ターゲット)のシンボルが描かれている。バンドが演奏する円形のステージは螺旋状に上下しており、風がメンバーの顔に吹きつける。監督はAlex & Martinが務め、スペインのエブロ川デルタのプンタ・デル・ファンガールで撮影された。このビデオは2005年のグラミー賞で最優秀ショートフォーム・ミュージックビデオを受賞している。
歌詞の意味
この曲は“現実の重力がねじれる瞬間”を、そのまま体験として描く構造になっている。語り手はクラブとも戦場ともつかない騒音の渦に放り込まれ、光と闇が高速で入れ替わる空間のなかで、思考より先に身体が反応するような感覚に支配されていく。Vertigo(めまい) は場所ではなく、状態そのものとして提示され、秩序も方向感覚も失われた精神の傾きがそのまま世界の形になる。
音と光は断片的に襲い、夜空の穴や弾丸の火花といったイメージが、享楽と危機の境界を曖昧にする。ロックンロールに体を委ねようとしながらも、語り手はそのリズムに完全に馴染めず、むしろ“不協和の中にいる自分”を強く意識する。だがその混乱の中心で、ひとりの人物の存在だけが鮮烈に浮かび上がり、めまいの渦を貫く唯一の“実感”として機能する。
ここでの恋は救済というより “混乱に形を与える重し” のような役割を持つ。自我が揺らぎ、境界が崩れかける中で、相手は語り手にとって唯一“感じられる”ものとして立ち上がり、世界のノイズと自己の迷走を一時的に鎮める。クライマックスで示される“跪き方を教える愛”は、支配でも隷属でもなく、圧倒的な衝動の前に傲慢さを手放し、混沌の中心で新しい秩序を学ぶ行為に近い。
全体として、Vertigo は危険と恍惚が交差する精神の臨界点を象徴し、そこで掴んだ“かすかな手触りの愛”が、崩れかけた重力を再び引き寄せる核心として描かれている。混乱が渦巻く夜の底で、語り手はようやく何かを“感じる”ことだけが確かなものになり、それが世界の回転をわずかに安定させる唯一の支点になっていく。
タイトル「Vertigo」の意味
この曲の中の「Vertigo」には複数の意味が込められている可能性が高いため、無理に訳して限定的な意味にせずに、そのままカタカナ表記を訳として採用した。
1. めまい(Vertigo = めまい、錯乱、混乱)
- “Vertigo” は医学的には 「めまい」「平衡感覚の喪失」 を意味する。
- 歌詞では 「現実と非現実が混ざり合う、混乱した状態」 を指している可能性が高い。
- 「俺はヴァーティゴって呼ばれる場所にいる」= 「めまいがするような混沌の中にいる」 という比喩。
2. アルフレッド・ヒッチコックの映画『Vertigo』(邦題:『めまい』)
- 1958年のヒッチコックの映画『Vertigo』は、幻想と現実が入り混じる不安定な世界観を描いている。
- U2はよく映画や文学を歌詞の中に取り込むので、この映画の影響も考えられる。
- 現実と幻想の境目が曖昧になるような感覚を「Vertigo」として表現しているのかもしれない。
3. 精神的な混乱や堕落
- 曲全体のテーマとして「誘惑・狂気・混乱・麻薬・暴力」などの要素が含まれている。
- 「Vertigo(めまい)」のように「頭がクラクラする状態」=「誘惑や堕落に引き込まれる感覚」を指している可能性もある。


