音源
CDリマスター音源(2017)
Bowie at the Beeb(2000)のDisc3に収録されたライブバージョン。
曲情報
“Always Crashing in the Same Car”(オールウェイズ・クラッシング・イン・ザ・セイム・カー)は、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)が1977年のアルバム『Low』のために書いた曲である。
この曲の歌詞は、同じ間違いを何度も繰り返すことへの苛立ちを表現している。曲の語り手は、ホテルのガレージを高速で円を描くように走る様子を語り、慎重に危険を確認しているにもかかわらず、結局は必然的に衝突してしまう。その様子を、ジャスミンという名の少女が見つめている。なお、「ジャスミン」は少女ではなく、這うように伸びる花(ジャスミン)を比喩として用いている可能性も指摘されている。
背景
この曲は、ボウイの人生に実際に起きた出来事に言及している。これは彼のコカイン依存が最高潮に達していた時期に起きた。ボウイはメルセデスを運転中、以前自分を騙したと思われるドラッグディーラーを街で発見した。報復として、ボウイはそのディーラーの車に自分の車を何度もぶつけた。その後ホテルに戻り、ホテルの地下ガレージで車をぐるぐると走らせ続けたとされている。また、「ジャスミン」はその時ボウイと同乗していたと言われるイギー・ポップを指しているという説もある。
この曲には2つのヴァースが存在するが、本来は3つのヴァースが計画されていた。スタジオでは、ボウイは3つ目のヴァースをボブ・ディラン風のスタイルで歌っており、ユーモラスな仕上がりになる予定だった。しかし、ボブ・ディランが数年前に有名なバイク事故を起こしていたこと、そしてこの曲のテーマを考えると、その引用は不謹慎だとバンドが判断し、ボウイ自身がトニー・ヴィスコンティに頼んで録音からそのヴァースを削除させた。
伝記作家ヒューゴ・ウィルケン(Hugo Wilcken)は、この曲が「Be My Wife」と同様に、シド・バレットのアルバム『The Madcap Laughs』に収められた歌詞や、バレットが音楽にしたジェイムズ・ジョイスの詩「Golden Hair」の影響を受けていると考えている。また『Low』の録音時、ブライアン・イーノ(Brian Eno)がピンク・フロイドの「Matilda Mother」で使用されたファルフィッサ・オルガンを所有していたこと、そして『Low』でファルフィッサが使用されていることを指摘しているが、それが同一の楽器かどうかは不明としている。
この曲では、バンドの演奏の上にボウイの比較的穏やかなボーカルを重ねるため、シンセサイザーや音響処理が用いられている。曲の終盤には長いギターソロが入っている。
歌詞の意味
この曲は同じ失敗を繰り返す自己破壊的衝動を車の事故という比喩を通して描いている。語り手は道を走り続けながらも注意深く左右を確認しており、一見すると慎重に行動しているように見えるが、それでも最終的には同じ結末へと向かってしまう。交通の光景や走行距離は、人生の進行や選択肢の象徴として扱われ、何度挑戦しても結果が変わらない停滞感が強調される。
人物名が登場する場面では、他者の存在が状況に小さな揺らぎを与えるものの、語り手の行動そのものが変化せず、閉ざされた空間での高速走行が自己反復の構図を明確にする。速度の高まりや円を描くような運転は、出口の見えない心理状態を示し、危険を承知しながらも同じ過ちに引き寄せられる様子を象徴している。
全体として、この曲は自己破壊的循環から抜け出せない人間の心理を簡潔かつ冷徹に提示し、反復する失敗がもたらす虚無感と諦念を浮かび上がらせている。
実際にあった出来事から歌詞を書いた
この曲は、ボウイのコカイン中毒の絶頂期に起こった実際の出来事について言及している。メルセデスを運転していたボウイは、路上で麻薬の売人を見つけ、その売人が自分を騙したと信じていた。報復として、ボウイは何度も自分の車をディーラーの車に突っ込み、その後ホテルに戻り、ホテルの地下駐車場を車でグルグルと周回した。
ジャスミン = イギー・ポップ?
また、ジャスミンとは、当時ボウイと一緒に車に乗っていたとされるイギー・ポップのことを指しているとも報じられている。
幻の3番
この作品には2節あるが、当初は3節を予定していた。スタジオでボウイは、面白いことを意図してボブ・ディラン風のスタイルで3番目のVerseを歌った。しかし、その数年前にボブ・ディランがひどいバイク事故を起こしていたことを考慮し、ボウイはトニー・ヴィスコンティに3番目のVerseをレコーディングから削除するよう求めた。


