【曲解説】The Doors – Break On Through (To The Other Side)

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曲情報

「Break On Through(To the Other Side)(ブレイク・オン・スルー(トゥ・ジ・アザー・サイド)」は、アメリカのロックバンド、ドアーズによる楽曲である。1967年のデビューアルバム『The Doors』の冒頭を飾る曲で、エレクトラ・レコードからバンド初のシングルとしてリリースされたが、アメリカでは最高位126位と商業的成功には至らなかった。しかし、バンドのライブでは定番曲となった。

1991年には映画『ドアーズ』のサウンドトラックからシングルとして再リリースされ、イギリスではUKシングルチャートで64位を記録した。

音楽構造と作曲

この曲は4/4拍子で書かれたアップテンポの楽曲で、エオリア旋法が用いられている。イントロでは、リムクリックによるクラーベ・パターンとライドシンバルによるドライブ感のあるビートでボサノヴァのリズムが形成されている。ドラマーのジョン・デンスモアは、当時ブラジルから流行していたボサノヴァに触発されてこのリズムを採用した。曲全体のスタイルにはマンボ音楽の影響も見られる。ボサノヴァに特徴的なベースラインがほぼ全編にわたって続く。

ギタリストのロビー・クリーガーは、自身のギターリフがポール・バターフィールドによる「Shake Your Moneymaker」(原曲はエルモア・ジェームス)のバージョンに影響を受けたと述べている。キーボードのレイ・マンザレクは、自身のパートがスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトによるアルバム『Getz/Gilberto』に触発されたと語っている。

また、レイ・チャールズの「What’d I Say」のベースラインや、Themの「One Two Brown Eyes」も影響源として挙げられている。音楽評論家リッチー・アンダーバーガーは、「One Two Brown Eyes」のイントロが「Break On Through」と非常によく似たボサノヴァ風のドラムパターンと下降する循環ベースラインを用いていると指摘している。

歌詞には本来「She gets high」というフレーズが含まれていたが、「high(ハイ)」という単語が薬物を想起させるとして、プロデューサーのポール・A・ロスチャイルドにより「She get!」に編集された。ドラマーのデンスモアは「しぶしぶ同意した」と述べている。1999年のボックスセット『The Complete Studio Recordings』では、エンジニアのブルース・ボトニックによってこの削除部分が復元されている。

評価

AllMusicの評論家リンジー・プレイナーは、モリソンの歌詞について「ロック音楽にはこれまで見られなかった文学性を示している」と評価しており、「Break On Through」は一見ラブソングのような構成を持ちながら、「I found an island in your arms / A country in your eyes」のようなロマンチックな描写と、「arms that chained up / Eyes that lied」のような不穏な表現が並置されている点が特徴であると指摘している。

『ビルボード』誌はこの曲を「興奮に満ちたロックナンバー」であり、「強力なデビュー作」と評し、『キャッシュボックス』誌も「ドライブ感ある脈動的な楽曲で、多くのオンエアが期待される」と評価した。

この曲はドアーズの代表曲の一つとされており、2021年には『ガーディアン』紙が選ぶ「ドアーズの楽曲ベスト30」で第2位に、Louder Sound誌の「ドアーズの楽曲ベスト20」では第5位にランクインした。2012年には、NASAの火星ミッションにおいて再生される楽曲としても選ばれている。

歌詞の意味

この曲は抑圧された状態から抜け出し、別の境地へ達しようとする衝動が核になっている。昼と夜の対比や逃避の試みが示され、日常の循環を乗り越えようとする姿勢が前景化されている。快楽の追求や痛みの記憶が入り混じり、感情の振れ幅が大きい関係性も挿入されることで、突破すべき壁が個人の内面にも外部にも存在していることが暗示される。終盤では、時間の流れを断片的に示しながら、まっすぐでありながら幅広い“門”のイメージが加わり、境界を越えるというテーマがより強調されている。全体として、閉塞を破り、新たな領域へ踏み込む意志を反復的に示す構成になっている。

Gate(門)とは?

狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく、その道は広く、それを通って行く者が多い。
命に至る門は小さく、その道は狭く、それを見いだす者は少ない。

マタイによる福音書 7章13–14節

この歌詞に登場する Gate(門)は、新約聖書にある「広い門」を思わせる表現である。聖書では、滅びに至る門は広く、命に至る門は狭いとされている。ここで描かれるのはその「広い門」であり、まっすぐで深く、広がっているその姿は、人が快楽や堕落へと容易に堕ちることを表している。この門が出てくることで「Break on through to the other side(突き抜けろ、向こう側へ)」というフレーズが破滅への道を突き進むことを意味していることがわかる。

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