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曲情報
「ダラーズ・アンド・センツ」は2001年に発売されたレディオヘッド5枚目のスタジオアルバム『Amnesiac』に収録された曲。
カナダのジャーナリストであるナオミ・クラインが1999年に発表した反グローバリゼーションの本『No Logo: Taking Aim at the Brand Bullies』(邦題:『ブランドなんか、いらない』)にトムが触発されて書いた曲である。
歌詞の意味
インタビュー情報
Q: とはいえ、『Kid A』と『Amnesiac』のどちらにも、最初に聴いたときかなり難解な部分があることは認めざるを得ません。例えば僕は “Dollars & Cents” に全然意味を見出せなかったんですが…
トム・ヨーク: あれは僕らがCan的なことをやろうとしてふざけていた10分のテイクから始まったんだ。全てが自然発生的だった。歌詞については、僕はそういうのが好きなんだ──最初のテイクで出てきたものをそのまま残すっていうやり方がね。『OK Computer』を作ったときも全てのボーカルは一発録りだった。っていうのも、(a)後でやり直すなんて無理だったし、(b)その瞬間にいることが重要だったから。歌詞は意味不明だけど、長いこと僕が格闘していたアイデアから出てきてる。人々が基本的にスクリーン上のピクセルみたいなもので、名前すらつけられないような、操作的で破壊的な高次の力に知らず従ってしまってる。でも僕らには力がないから、それに名前を与えることができない。当時はグローバルマーケットの問題が僕の大きな関心事で、そのことについていろんな記事を読んでいて、それがライターズ・ブロックの巨大な原因になってた。今思うと馬鹿みたいだけど、個人的な感情について書く意味が見いだせなかった。他にもっと根本的に重要なことがあるように思えたんだ。
Mojo、2001年6月号(インタビュー:2001年4月12日)
この曲は、断片的で即興性の高い言葉を通して、個人が巨大な経済構造の中で無力化されていく感覚を描いている。歌詞は明確な物語構成を避け、思考の流れがそのまま定着したような不安定な語り口で進行し、日常的な不満や逃避願望と、大規模な市場システムへの嫌悪が交錯する。語り手は、建設的であれという呼びかけを発しつつも、それが機能しない社会状況に直面し、感情の行き場を見失っている状態に置かれている。
曲中では、経済を象徴する通貨の列挙が人間性を侵食する存在として提示され、個々の主体が巨大な市場原理の中で数値化され、搾取されるという認識が繰り返し暗示される。自己決定の困難さや閉塞感は、出口を求めながらも同じ場所を循環し続けるような表現で示され、社会構造のなかで個人が解体されていく過程が象徴的に描かれている。
前提知識にある発言が示す通り、歌詞は意図的に意味の断片をそのまま残したものであり、即興の勢いが重視されている。背後には、個人感情よりも世界規模の市場メカニズムへの懸念が強く存在し、人々が正体不明の巨大な力に従属させられているという問題意識が反映されている。曲全体は、言語の不安定さと反復を用いて、無名化された存在として生きる感覚と、そこから抜け出そうとする切望を同時に浮かび上がらせている。


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