【和訳】Beck – Lost Cause

動画

blurの”Coffee And TV“やR.E.M.の”Imitation Of Life“等の癖つよなMVを手掛けたガース・ジェニングスが監督。

歌詞&和訳

Your sorry eyes cut through the bone
君の申し訳なさそうな目が骨を切り裂き
They make it hard to leave you alone

君を一人にしづらくなっている
Leave you here wearing your wounds

傷を負った君をここに残すなんて
Waving your guns at somebody new

新しい誰かに銃を向けている君を

Baby you’re a lost
ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost

ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost cause

ベイビー、君はロスト・コーズなんだ

There’s too many people you used to know
君のかつての知り合いが多すぎる
They see you coming they see you go

君がやって来るのを見て、君が去って行くのを見る
They know your secrets and you know theirs

彼らは君の秘密を知っているし、君も彼らの秘密を知っている
This town is crazy; nobody cares

この街は狂ってるけど、誰も気にしてない

Baby you’re a lost
ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost

ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost cause

ベイビー、君はロスト・コーズなんだ
I’m tired of fighting

僕は戦うことに疲れた
I’m tired of fighting

僕は戦うことに疲れた
Fighting for a lost cause

変わる見込みがないものと戦うことに

There’s a place where you are going
君が向かっている場所がある
You ain’t never been before

それは君が一度も行ったことがない場所だ
No one laughin’ at your back now

もはや君に後ろ指をさして嘲笑う人すらいなくなった
No one standing at your door

君のドアの前には誰も立っていない
That’s what you thought love was for

それが君が愛だと思っていたものだ

Baby you’re a lost
ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost

ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost cause

ベイビー、君はロスト・コーズなんだ
I’m tired of fighting

僕は戦うことに疲れた
I’m tired of fighting

僕は戦うことに疲れた
Fighting for a lost cause

変わる見込みがないものと戦うことに

和訳リンク

訳解説

誰のことを歌ってるの?

Your sorry eyes cut through the bone
君の申し訳なさそうな目が骨を切り裂き
They make it hard to leave you alone

君を一人にしづらくなっている
Leave you here wearing your wounds

傷を負った君をここに残すなんて
Waving your guns at somebody new

新しい誰かに銃を向けている君を

 申し訳なさそうな目をしているのは浮気していた元・婚約者のリー・リモン(Leigh Limon)のこと。

“Waving your guns at somebody new”の意味は?

 waveというと銃を左右に振っているようにイメージしてしまうが、ここではその意味ではない。日本版CD付属の和訳には「誰か別の奴に向かって 君が銃を振ってる」とあり、このイメージを連想させてしまう訳になっている。

 merriamの英英辞典にはwaveの意味の一つが次のように説明されている。

: to motion with the hands or with something held in them in signal or salute

:合図や挨拶で手や何かを手に持って動作すること。

 このように動作の仕方には具体的な定義がない。この歌詞ではat(向かって、狙って)が伴っており、「Waving your guns at somebody new」で「新しい誰かに銃を向けている」という訳になる。

 浮気発覚後に人間関係にトラブルを抱えた彼女が、疑心暗鬼になっている様子を表現していると思われる。

lost causeの意味は失われた大義ではない

Baby you’re a lost
ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost

ベイビー、君はロスト
Baby you’re a lost cause

ベイビー、君はロスト・コーズなんだ

 “lost cause”の意味は日本版CD付属の和訳を見ると「失われた大義」とあるが意味が違う。そして間違った和訳がAIの機械翻訳にまで取り込まれてしまっている。しかし、この言葉に対応する日本語がない。英和辞典では「〔成功の〕見込みがない運動[試み・努力]」や「失敗に終わった運動」とあったが、これだけではいまいちよくわからない。しかし、collinsの英英辞典の説明がこの歌詞を完璧に説明する意味を掲載していたので紹介したい。

If you refer to something or someone as a lost cause, you mean that people’s attempts to change or influence them have no chance of succeeding.
They do not want to expend energy in what, to them, is a lost cause.

:何かまたは誰かを”lost cause”と呼ぶ場合、人々が彼らを変えたり影響を与えようとする試みは成功する見込みがないことを意味します。彼らにとっては”lost cause”にエネルギーを費やしたくないのです。

 浮気が発覚して申し訳なさそうに反省の色を見せる婚約者リー・リモンに対して、ベック・ハンセンは彼女を変える試みは成功する見込みがなく、成功する見込みがないものに対してこれ以上エネルギーを費やしたくない、と思っているということで意味がぴったりと当てはまる。既に婚約関係にあるのに浮気をするような人と結婚しても上手くいくわけがない。そういう諦めの気持ちが現れている切ないサビである。この意味に対応する日本語がないのでそのままロスト・コーズとした。

 ちなみに「大義」という言葉の意味は『精選版 日本国語大辞典』において「① 重要な意義。大切な意味。要義。」と定義されている。「大切な意味が失われた」という意味での「失われた大義」という訳は恋愛ソングとして文脈的に不自然ではないが、全く異なる意味の訳になってしまう。

曲情報

 『Sea Change』は、アメリカのミュージシャン、ベックによる8枚目のスタジオアルバムで、2002年9月24日にゲフィンレコードからリリースされた。プロデューサーのナイジェル・ゴドリッチとともにロサンゼルスで2か月にわたってレコーディングされたこのアルバムは、失恋と荒廃、孤独と寂しさをテーマにしている。

 「Guess I’m Doing Fine」と共にプロモーション限定シングルとしてリリースされた。

 「Lost Cause」などの多くの曲はアルバムのレコーディング前にライブで演奏された。

解釈

浮気を軽く考える倫理観しか持たない街の人間たち

君のかつての知り合いが多すぎる
君がやって来るのを見て、君が去って行くのを見る
彼らは君の秘密を知っているし、君も彼らの秘密を知っている
この街は狂ってるけど、誰も気にしてない

 リー・リモンはスタイリストでもあったことから当時の活動の拠点であるロサンゼルスに知り合いが多く、ベックとの共通の知人も多かった。秘密とは不倫のこと。知人はレイが何をしているのかみんな知っているし、レイも彼らの秘密を知っている。しかもそのことに対して誰も強い問題意識を持っていない。被害者であるベックから言わせれば、そんな元・婚約者とその知人を含むこの街の人間の倫理観は狂っている、ということである。

彼女が”lost cause”である理由

 また、そんな不倫を軽く考える知人たちに囲まれて生きてきたからこそ、彼女の問題は根深い。彼女は“lost cause”である。つまり、彼女を変えようとしても変わる見込みがない。結婚は必ず失敗する。

相手の間違いを突きつける部分

No one laughin’ at your back now
もはや君に後ろ指をさして嘲笑う人すらいなくなった
No one standing at your door

君のドアの前には誰も立っていない
That’s what you thought love was for

それが君が愛だと思っていたものだ

 一行目はリー・リモンにみんな興味すら失っていることを表している。二、三行目ではリー・リモンが追い求めていた愛が間違っていたことを突きつけている部分。相手の人生に責任を持つような普遍的・長期的な愛が婚約をする際に要求される愛なら、リー・リモンが持っていた愛は、相手の見た目や行為のスリルで一時的・短期的な快楽を共有できる性愛が主体だった。そして、その弱い絆はいざ問題が起こると簡単に切れてしまう。無責任な彼女が構築していた人間関係は脆く、弱っている彼女を気遣って誰かが訪問してくることもない。ベックは間違いを犯したかつての恋人に落ち着いた声でその事実を突きつけている。

もう一つのMV

Version2もガース・ジェニングスが監督。こちらはかなりまとも。